パノラマ撮影キット、Pixeet レビュー(後編)

2012年12月

前回のブログでは、先日購入したパノラマ撮影キット、Pixeetの基本的な操作方法についてレビューをまとめてみました。後編では、他の手法で撮影したパノラマ写真との画質比較や、実際のビジネスでどのように活用できそうか、私なりのアイディアをまとめてみたいと思います。

画質はそれほど悪くない

Pixeetのサーバー上で合成されたパノラマ写真のサイズは2,048ピクセル × 1024ピクセルなので、横2:縦1のエクレクタンギュラー形式です。アプリの設定画面から、iPhoneのカメラロール内にJPEGファイルとして書き出すことができます。

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パノラマ写真の上下に帯のように伸びているのは、Pixeetのロゴマークですね。魚眼レンズの死角になっている天地の部分に自動的にロゴマークを挿入する処理を行なっているようです。

パノラマ写真の画質比較

過去にブログで一眼レフ+魚眼レンズとGirocamのパノラマ写真比較を行ったことがありますが、今回も同様の地点からPixeetで撮影してみました。(当然、前回のパノラマ写真は今回とは異なる天候条件下で撮影していますので、あくまで参考としてご覧下さい)

Pixeetで撮影したパノラマ写真

Pixeet

前回のレビューの通り、撮影は非常に簡単。その反面、魚眼レンズを通しての撮影となるため、どうしても全体的にノイズが入ってしまっていますね。PCからの閲覧を前提とした、高品質なバーチャルツアーコンテンツの利用には向いていませんが、タブレットやスマートフォンで、その空間のおおよその雰囲気を把握するには十分使えそうです。

Photosynthで撮影したパノラマ写真

今回は新たにPhotosynthも比較対象に加えてみました。PhotosynthはMicrosoft Researchの画像処理技術をベースに開発されたiPhoneアプリで、4,096ピクセル×2,048ピクセルの高画質なパノラマ写真を作ることができます。しかし、上下左右360度を全てカバーしようとなると、合計で30回以上自動認識による撮影(またはタップ)を行う必要があるので、撮影が結構大変です。。また、自動認識が必ずしも上手くいかない場合もあります。

(参考)Girocamで撮影したパノラマ写真

Girocam

(参考)一眼レフ+魚眼レンズで撮影したパノラマ写真

一眼レフ+魚眼レンズ

実ビジネスでの活用方法

例えば、不動産物件紹介などの用途であれば、Pixeetで撮影したパノラマ写真は十分なクオリティだと言えます。また、撮影コストも1地点当たり1分程度・4回の撮影なので、業務に支障を来たすほど労力・時間がかかるわけではなく、決して大量物件の撮影も不可能ではないと思います。

事実、Pixeetのウェブサイト上では、不動産の物件紹介用途と思われるコンテンツが数多く公開されているので、海外では既にこういった利用方法のユーザーが少しずつ増えているのかもしれません。(事実、不動産のマーケティングツールとしてPixeetの活用を勧めるブログがありました)

ここからは私個人の妄想になりますが、もし大規模な不動産ポータルサイトで本格的に導入する場合は、やはり物件データベースと連携した専用アプリの開発が必要になるのではないかと思います。と言うのも、この専用アプリを営業マンに配布すれば、パノラマ写真撮影作業、完成したパノラマコンテンツと物件の紐付け作業、公開処理までをほぼ同時に行えるため、その後の業務プロセスを大幅に簡略化することができるからです。更に、先日発表させて頂いたパノラマコンテンツ制作・運用のための専用プラットフォーム「PanoPlaza for Portal」と組み合せることで、パノラマ写真が撮影できるクライアントサイドの専用アプリから、バックエンドサイドのパノラマコンテンツ管理システムまでをエンドツーエンドでご提供することができます。

これまでにも、パノラマコンテンツは不動産サイトでの利用に適していると言われてきましたが、パノラマ写真の撮影コストや技術的な難易度の高さから、なかなか大規模な導入までには至っていません。しかし、これらの課題が徐々に解決されつつある今、リッチコンテンツな次世代不動産ポータルサイトが誕生する日も近いかもしれませんね。

パノラマ撮影キット、Pixeet レビュー(前編)

2012年12月

画質と手間のバランスがとれたPixeet

今回は、フランスのPixeet社が提供するパノラマ撮影キットおよび専用アプリをご紹介したいと思います(Girocamもそうですが、フランスも含めてヨーロッパにはパノラマやカメラデバイスの製造・開発に取り組んでいるベンチャー企業が多いイメージがあります)。以前からその存在は何となく知っていたのですが、ふとしたきっかけで改めてサイトを見たところ、以下2点に強い興味を持ちました。

  • 1. 魚眼レンズにも関わらず、従来に比べて画質が良い
  • 2. 4ショットの撮影で360度パノラマ写真ができる

Pixeet

これまでにもiPhoneに装着するタイプの魚眼レンズを幾つか試してみたところがありますが、どれも画質がイマイチ。ワンショットミラーはもっと残念な感じです。ところが、Pixeetのデモコンテンツを見る限り、結構、いや、かなりきれいに撮れている。これが興味を持った最も大きな理由です。

しかし、仮に画質が良くとも、それに比例して手間がかかってしまってはあまり意味がありません。この点についても、Pixeetは4回の撮影で全方位がカバーできるとのこと。これは期待できるかも?と思い、早速、社長に頼み込んで発注してもらうことになりました。

キットが到着!

注文から2日後にはキットが到着。決済はPayPalですが、発送は国内からなので、早いですね。主な中身はケースと魚眼レンズの2つ(写真左)。


実際にiPhoneに装着してみるとこんな感じですね(写真右)。魚眼レンズは、ケースとマグネットで接着する仕組みになっています。

早速、試し撮り

Step1 : 撮影の準備

App StoreからダウンロードしたPixeet専用アプリ(無料)を起動します。そう、実はこのアプリこそが肝心で、最適化された魚眼レンズと組み合わせて使用することで、少ない撮影回数で、より高画質なパノラマ写真を作成することを可能にしているのです。このアプリを立ち上げると、メニュー画面が表示されます。ここから「新規パノラマ」、「4ショット 球状パノラマ作成」へと進みます。最後に保存するアルバムを選ぶと、いよいよ撮影画面になります。

Pixeet
Pixeet

Step2 : 4回の撮影

撮影モードのユーザーインターフェースは工夫されていて、画面中央に見える正方形の枠に対して、垂直方向と水平方向のグリッド線がちょうど合うようにiPhoneの位置を調整します。これがピッタリ重なると、線が緑色に変わり、自動的に3秒のカウントダウンが始まります。位置を固定して3秒間持ち続ければ、写真のシャッターが下りて、無事、1ショット目が完了となります。その後、画面に右に回るよう指示が出るので、iPhoneを右に90度向けて、先ほどと同様に位置合わせを行ない、撮影します。このようにして、右回りで4回撮影が終われば、終了です。

Pixeet
Pixeet

Step3 : アップロードと合成

あとは、アプリからアップロードするだけです。4枚の写真をつなぎ合わせて1枚のパノラマ写真に合成する処理はPixeetのサーバー上で実行しているようで、ネットワーク環境が必要になります。3G回線ではちょくちょくエラーメッセージが出ているので、WiFi環境のほうが安定していて良さそうです。3~4分ほど待つと、自動的にpixeet.com上にページが生成され、そこにキューブ変換後のパノラマ写真を見ることができるようになります。もちろん、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディア上での共有も可能です。尚、より詳細な操作方法はこちらのヘルプページにまとまっています。

完成したパノラマ写真はこんな感じです。

なかなかきれいに撮れてますねー。次回の後編では、異なる方法で撮影したパノラマ写真との画質比較や、実ビジネスでの活用アイディアについてまとめてみたいと思います!

ワンショット・360°パノラマ撮影専用デバイス GIROCAM

2012年11月

PanoPlazaでは通常一眼レフカメラと魚眼レンズを使って撮影した写真を合成することで360°パノラマ写真を制作していますが、パノラマ写真の撮影には様々な方法があります。当サイトでも、「パノラマ写真の作り方」と題して、普通のデジカメで撮った写真をWebアプリで合成したり、iPhoneで撮影する手法をご紹介しています。しかし、普通のカメラで撮影した写真を合成する手順は割と手間ひまのかかる作業になりますし、iPhoneアプリを使った撮影では思うような画質が出ません。PanoPlazaへの問い合わせでも、お客様ご自身がパノラマを撮影し、バーチャルツアーを更新していきたいというお話を聞くことがあります。そういったニーズに応えるべく、360°パノラマ写真を手軽に簡単に、しかも高画質で撮影することができる、「パノラマ撮影専用デバイス」というものが世間にはいくつかあります。今日はそういったデバイスの一つである「GIROCAM」のご紹介と、魚眼レンズ+一眼レフで撮ったパノラマ写真との比較について書いてみたいと思います。

ボタン一つで360°パノラマが撮れるGIROCAM

GIROCAM」は、フランスのGIROPTIC社が生産しているデバイスで、同じくフランスのKolor社から販売されています。Kolor社はパノラマ写真のスティッチング(合成)ソフトやバーチャルツアー制作のためのアプリケーションを開発・販売しており、この分野では大きなシェアを持っています。GIROCAMにはKolor社のソフトウェアが組み込まれ、ワンショットでの撮影からパノラマ合成までを、このデバイスと専用のソフトウェアで行います。撮影はとても簡単で、GIROCAMを三脚の上に固定し、ボタンを押すだけ。撮影の前にいくつかカメラの設定を行うことができますが、基本的に撮影時の操作はボタンを押すだけです。ボタンを押すと、10秒からカウントダウンが始まるので、撮影者は急いで隠れます。GIROCAMは全方位を一気に撮影するので、「カメラの後ろ側に隠れる」ということができません。撮影が終了するまでの時間は約1分程度ですが、その間はカメラが見えない位置に身を潜めます。撮影が終了すると「シュワワワビュワー」という近未来的な電子音が鳴り、撮影完了を知らせてくれます。

GIROCAMで撮影したパノラマ写真

上記がGIROCAMで撮影したサンプルです(クリックすると大きな画像が表示されます)。撮影後の操作も非常に簡単で、デバイスをUSBケーブルでPCにつなぎ、専用のソフトウェアから画像データを開くだけで合成が始まります。約1分くらいで合成が完了し、JPG形式のパノラマ写真が仕上がります。
※本来はパノラマ下部に画角に収まらない範囲が黒く塗りつぶされた状態で仕上がりますが、上記サンプルはその部分をトリミングしてあります。

続いてこちらはまったく同じ場所から一眼レフ+魚眼レンズで撮影したものです(クリックすると大きな画像が表示されます)。同じ範囲をトリミングしてあります。一見すると、画質がどうというよりも、色相がだいぶ違いますね。。撮影した時あたりは薄暗く曇っていたので、実際の現場に近いのは「一眼レフ+魚眼レンズ」で撮影した方です。GIROCAM側の設定で、この「色味」の違いはある程度補正できると思います。

画像を大きなサイズで見てみると、GIROCAMで撮影した方は若干、つなぎ目がズレている部分があります(GIROCAMは3つの魚眼レンズで同時撮影しているため)。全体的に少しノイズが入っており、モヤついた印象が否めません。また、「一眼レフ+魚眼レンズ」の場合は角度を分けて撮影するため、周囲の人や車が映り込むのをある程度防ぐことができます。その向きに人が居ない瞬間を狙ったり、合成の過程で切り取る事もできます。一方GIROCAMのワンショット撮影では、1度の撮影で全方位を撮るため、人や車が入った場合に修正しようがありません。今回はちょうど通りかかった方が映り込んでしまいました。。

パノラマデバイスは今後も進化するか?

「一眼レフ+魚眼レンズ」で正攻法的に撮影したパノラマ写真と結果だけを比較すると、当然ワンショット・デバイスの画質は劣ります。そのため時間や環境が許す限り、正攻法の撮影がベストなのですが、GIROCAMの魅力はその手軽さです。三脚とデバイスさえあれば、撮影時に考える事はほとんどありません。どこに露出を合わせたら良いかとか、カメラの設定を気にする必要は一切なく、たった1分程で撮影が終わってしまいます。これだけ簡単に撮影ができて、その上画質もそこそこに仕上がります。画質にそこまでこだわりが無い場合や、短時間で大量の撮影を行う時などには、非常に有効なソリューションだと思います。

パノラマ写真の撮影やパノラマコンテンツが徐々に増えてこそいるものの、なかなか火がつかないのには、パノラマ撮影の難易度に原因の一端があると私たちは感じています。もっと手軽に、キレイなパノラマ写真が撮れれば、利用者はもっともっと増えるでしょう。iPhone5にもパノラマ写真の撮影機能が搭載され、スマートフォンでパノラマを撮影するという技術は確立されつつあります。一方、スマートフォンの画質では物足りないというユーザーをターゲットに、「GIROCAM」のような専用デバイスが活用され、より新しい技術や製品が提供されることを期待しています。

追記:
当記事執筆前後に、仏Kolor社は当記事でご紹介させて頂いた「GIROCAM」の取扱いを中止すると発表しました。詳細はこちらに記載されています。これにより、これまでKolor社によって提供されていたGIROCAMハードウェア本体のテクニカルサポートが打ち切りとなります。GIROCAMに同梱されているソフトウェアについては、引き続きKolor社でのサポートが継続されるようです。ご購入をお考えの方は、充分ご検討下さい。

パノラマ撮影キットの現状と今後について

2012年9月

パノラマ撮影のセルフキット

1ヶ月ほど前の話になりますが、BubblePixというイギリスの会社が提供している、bubblescope(バブルスコープ)というiPhone用のパノラマ撮影キットがニュースに取り上げられていました。このキットはいわゆる「ワンショットミラー」と呼ばれるもので、逆さにした円錐形のミラーに映る全方位の様子を撮影することができます。



※注意:BubblePixとは異なるミラーで撮影した写真

また、BubblePix社は専用共有サイトというを「場」をユーザに提供することで、パノラマ撮影の動機付けをし、結果的にこのハードウェアのプロモーションの役割を果たしていると言えます。

 

セルフキットとPanoPlaza

当社では、このような簡単かつ低コストなパノラマ撮影を可能にするハードウェアに注目しています。というのも、私たちが提供するPanoPlazaはお客様自身でパノラマ写真をご準備頂くところがスタート地点となるサービスで、それ以降のバーチャルツアーコンテンツ制作の工程にフォーカスしています。従って、このようなパノラマ撮影のセルフキットが広まることで、よりPanoPlazaのニーズや利用価値が高まると考えているのです。

もちろん、当社スタッフが現地にお伺いする撮影サービスもご提供しており、非常に多くのお客様にご利用頂いておりますが、「自分たちで手軽に撮影できるような方法はないのか」といったご要望を頂くこともまた事実です。

画質とコストのトレードオフ

さて、このbubblescope、一般ユーザが手軽に簡単にパノラマ撮影ができるというメリットがあるものの、デメリットも残念ながら存在します。それは画質が相対的に見て良くないという点です。

例えば、パノラマ写真が撮影できるiOSアプリの代表格、Photosynthは、撮影した複数枚の写真から、高画質な1枚のパノラマ写真を自動的に生成しますが、bubblescopeの場合は、ミラーに写った全方位の風景を1枚の写真として撮影・加工するため、どうしても画質が劣ってしまいます。逆にPhotosynthは回転途中で上手く行かなくなってしまったり、写真の繋ぎ目が少し破綻してしまうなど、必ずしbubblescopeのワンショットのような手軽さがあるわけではありません。

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このように、現在の技術では、パノラマ写真の画質と撮影コストはほぼ完全なトレードオフの関係にあると言えるでしょう。(例外をご存知の方、ぜひ不勉強な私に教えて下さい!)

今後のイノベーション

このトレードオフ、なかなか悩ましい問題ですが、近い将来、これを覆すようなイノベーションが必ず起こると信じています。特にここ数年で起きたスマートフォンの急速な進化と普及が、写真を軸としたコミュニケーションのあり方に大きなインパクトを与えています。従って、スマートフォンという技術が写真共有アプリの盛り上がりを生み出したのだとしたら、技術的なイノベーションさえあれば、「空間そのものの共有」という新しい形のコミュニケーションが促進されることもあり得るのではないでしょうか。

今後も、パノラマに関連する様々なハードウェアやサービスについて書いて行きたいと思います。