RICOH THETAの現状と未来(後編)

2014年3月

「RICOH THETAの現状と未来」シリーズも今回が最後のエントリーとなりました。前編では、RICOH THETAの本質的な価値と方向性を探り、続く中編では、ユーザーアンケートをヒントに開発ロードマップを予測してみました。

そして、後編では弊社の実験的な取り組みとして開発した試作品、「Raspberry Piを利用したRICOH THETA遠隔制御システム」(以下、プロトタイプ)についてご紹介したいと思います。RICOH THETAの「未来」を少しでも感じられるきっかけになれば幸いです。

プロトタイプの狙い

前編でも少し触れましたが、近い時期にリコー社から公式SDK/APIがリリースされる可能性は高いと考えており、今後は、RICOH THETAの可能性を最大限に引き出すようなサードパティー製のアプリケーションが数多く開発されるのではないかと予測しています。

弊社は2年以上前からバーチャルツアーコンテンツを簡単に制作・公開ができるクラウドプラットフォーム「PanoPlaza」を運営しており、まさにRICOH THETAのような撮影デバイスの登場を長らく待ち望んでいました。RICOH THETAのAPIが利用できるようになれば、例えば、撮影の制御から公開までのほぼ全ての制作工程をスマートフォン上で完結させるといったことも実現できるようになるでしょう。

ただ、これだけでは既存のプラットフォームとより密に連携できるようになったに過ぎません。もちろん、これも価値のある取り組みですが、もっと新しい可能性にチャレンジしてみようということで企画を進めたところ、「定期的にRICOH THETAで自動撮影をさせて、その空間の変化が時系列順に見れたら面白いのでは」という発想に行き着きました。外部から制御が可能で、かつ撮影から合成処理までを実行できるRICOH THETAだからこそ、初めて実現可能なアイディアと言えます。そして、その実装のために採用されたのが、Raspberry Piです。

Raspberry Piとは

Raspberry Piを一言で説明すると、「安価で小型なLinux PC」です。

一見するとPCには全く見えませんが、実はこの名刺サイズのコンパクトな基板の上には、OS、CPU/GPU、メモリ、USBポート、SDメモリカード、イーサネット、HDMIといった、一般的なPCの標準装備とほぼ変わらない技術的要素が詰め込まれています。使い方によっては、ソフトウェアの実行結果をハードウェアに伝えることができるため、Raspberry Piはインターネットと現実世界の橋渡し役を果たすコンピューターと言えます。

Raspberry Pi(モデルB)(写真:Raspberry Pi公式サイト

 

もともとは、基本的なコンピューター・サイエンスの教育促進を目的としてイギリスで始まったプロジェクトということもあり、趣味の電子工作から他のハードウェアとの本格的な連携まで、非常に幅広い層と用途で利用されています。発売開始からちょうど2年が経った現在では、全世界の出荷台数が200万台を超えるほどの規模にまで成長しています。低コストながら小型で高機能さを両立していることが人気の秘密のようです。

プロトタイプの概要

プロトタイプの概要を図にすると以下のようになります。処理の流れを順を追って説明します。

まず、PCとRaspberry Piは有線LANで接続されています。Raspbbery Piには、Pythonで書かれたRICOH THETAを制御するスクリプトが配置されており、PCからこのスクリプトを動作させることで、RICOH THETAに指示を与えています。

一般的な利用方法では、スマートフォンを使ってWi-Fi経由でRICOH THETAに接続し、PTP(Picture Transfer Protocol)と呼ばれる画像転送プロトコルに乗せて、撮影した画像をスマートフォンに送っています。プロトタイプでは、このスマートフォンの役割をRaspberry Piが担うことになります。

前述の制御スクリプトは、「1分間に1回の周期でシャッターを切って、画像を取得する」という指示をRICOH THETAに送っており、撮影された画像は適宜Raspberry Pi上のSDカードに保存されていきます。これら画像を同一ネットワーク上にあるPCからブラウザを通じて閲覧すると、次々と更新されていくパノラマコンテンツを体験することができるという仕組みです。

なお、ブラウザでの閲覧では、WebGLを扱いやすくするJavaScriptライブラリ、Three.jsを利用しています。このライブラリを利用することで、SDカード内に保存されたパノラマ写真をいちいちエクレクタンギュラー形式からキューブ形式へ変換処理するのではなく、画像を読み込むタイミングで都度ブラウザ側で処理して表示させることができます。

画面スクリーンショット(画面左側のリンクから撮影時間を選択可能)

 

制御スクリプトの作成に当たっては、MobileHackerz様のブログtako2様の公開ソースコードを参考にさせて頂きました。有難うございます!

プロトタイプのユースケース

さて、プロトタイプは完成したものの、肝心の用途についてはまだまだ手探りの状態です。今回作成したプロトタイプの特徴は「遠く離れた空間の360度パノラマ写真を必要なタイミングでリアルタイムに取得できる」ことなので、これを軸に思いついたユースケースを幾つかリストアップしてみました。

<セキュリティ>
動体検知センサーと連動し、空間内に動きがあった瞬間のみパノラマ写真を撮影。管理者に閲覧用URLをメールで通知。

<ライブカメラ>
自然・天候・交通状況などの観測用ライブカメラとして設置し、定期的に撮影したパノラマ写真をほぼリアルタイムにネット上で配信。

<業務システム>
BIMやCAFM(※)における付加的・補足的な画像データとしてパノラマ写真を撮影し、システム内に取り込む。工事の進捗状況の管理もしくは空間情報のアーカイブとして利用。

※ BIM:Building Information Modeling、建築物の3次元モデルに様々な属性情報を付加することで、業務効率化を推進するワークフロー / CAFM:Computer Aided Facility Management、コンピューターを活用した施設管理支援システム

 

実際には、RICOH THETAはスタンバイ状態がしばらく続くと自動で電源オフになってしまったり、USB接続による充電中は撮影モードにできないなど、幾つか解決すべき課題はありますが、アイディア次第で可能性は更に広がりそうです。

もし、RICOH THETAを活用したソリューションにご興味・ご感心をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にこちらよりご連絡ください!

» RICOH THETAの現状と未来(前編)

» RICOH THETAの現状と未来(中編)

パノラマ撮影キット、Pixeet レビュー(後編)

2012年12月

前回のブログでは、先日購入したパノラマ撮影キット、Pixeetの基本的な操作方法についてレビューをまとめてみました。後編では、他の手法で撮影したパノラマ写真との画質比較や、実際のビジネスでどのように活用できそうか、私なりのアイディアをまとめてみたいと思います。

画質はそれほど悪くない

Pixeetのサーバー上で合成されたパノラマ写真のサイズは2,048ピクセル × 1024ピクセルなので、横2:縦1のエクレクタンギュラー形式です。アプリの設定画面から、iPhoneのカメラロール内にJPEGファイルとして書き出すことができます。

pixeet-e1354608632413

パノラマ写真の上下に帯のように伸びているのは、Pixeetのロゴマークですね。魚眼レンズの死角になっている天地の部分に自動的にロゴマークを挿入する処理を行なっているようです。

パノラマ写真の画質比較

過去にブログで一眼レフ+魚眼レンズとGirocamのパノラマ写真比較を行ったことがありますが、今回も同様の地点からPixeetで撮影してみました。(当然、前回のパノラマ写真は今回とは異なる天候条件下で撮影していますので、あくまで参考としてご覧下さい)

Pixeetで撮影したパノラマ写真

Pixeet

前回のレビューの通り、撮影は非常に簡単。その反面、魚眼レンズを通しての撮影となるため、どうしても全体的にノイズが入ってしまっていますね。PCからの閲覧を前提とした、高品質なバーチャルツアーコンテンツの利用には向いていませんが、タブレットやスマートフォンで、その空間のおおよその雰囲気を把握するには十分使えそうです。

Photosynthで撮影したパノラマ写真

今回は新たにPhotosynthも比較対象に加えてみました。PhotosynthはMicrosoft Researchの画像処理技術をベースに開発されたiPhoneアプリで、4,096ピクセル×2,048ピクセルの高画質なパノラマ写真を作ることができます。しかし、上下左右360度を全てカバーしようとなると、合計で30回以上自動認識による撮影(またはタップ)を行う必要があるので、撮影が結構大変です。。また、自動認識が必ずしも上手くいかない場合もあります。

(参考)Girocamで撮影したパノラマ写真

Girocam

(参考)一眼レフ+魚眼レンズで撮影したパノラマ写真

一眼レフ+魚眼レンズ

実ビジネスでの活用方法

例えば、不動産物件紹介などの用途であれば、Pixeetで撮影したパノラマ写真は十分なクオリティだと言えます。また、撮影コストも1地点当たり1分程度・4回の撮影なので、業務に支障を来たすほど労力・時間がかかるわけではなく、決して大量物件の撮影も不可能ではないと思います。

事実、Pixeetのウェブサイト上では、不動産の物件紹介用途と思われるコンテンツが数多く公開されているので、海外では既にこういった利用方法のユーザーが少しずつ増えているのかもしれません。(事実、不動産のマーケティングツールとしてPixeetの活用を勧めるブログがありました)

ここからは私個人の妄想になりますが、もし大規模な不動産ポータルサイトで本格的に導入する場合は、やはり物件データベースと連携した専用アプリの開発が必要になるのではないかと思います。と言うのも、この専用アプリを営業マンに配布すれば、パノラマ写真撮影作業、完成したパノラマコンテンツと物件の紐付け作業、公開処理までをほぼ同時に行えるため、その後の業務プロセスを大幅に簡略化することができるからです。更に、先日発表させて頂いたパノラマコンテンツ制作・運用のための専用プラットフォーム「PanoPlaza for Portal」と組み合せることで、パノラマ写真が撮影できるクライアントサイドの専用アプリから、バックエンドサイドのパノラマコンテンツ管理システムまでをエンドツーエンドでご提供することができます。

これまでにも、パノラマコンテンツは不動産サイトでの利用に適していると言われてきましたが、パノラマ写真の撮影コストや技術的な難易度の高さから、なかなか大規模な導入までには至っていません。しかし、これらの課題が徐々に解決されつつある今、リッチコンテンツな次世代不動産ポータルサイトが誕生する日も近いかもしれませんね。

パノラマ撮影キット、Pixeet レビュー(前編)

2012年12月

画質と手間のバランスがとれたPixeet

今回は、フランスのPixeet社が提供するパノラマ撮影キットおよび専用アプリをご紹介したいと思います(Girocamもそうですが、フランスも含めてヨーロッパにはパノラマやカメラデバイスの製造・開発に取り組んでいるベンチャー企業が多いイメージがあります)。以前からその存在は何となく知っていたのですが、ふとしたきっかけで改めてサイトを見たところ、以下2点に強い興味を持ちました。

  • 1. 魚眼レンズにも関わらず、従来に比べて画質が良い
  • 2. 4ショットの撮影で360度パノラマ写真ができる

Pixeet

これまでにもiPhoneに装着するタイプの魚眼レンズを幾つか試してみたところがありますが、どれも画質がイマイチ。ワンショットミラーはもっと残念な感じです。ところが、Pixeetのデモコンテンツを見る限り、結構、いや、かなりきれいに撮れている。これが興味を持った最も大きな理由です。

しかし、仮に画質が良くとも、それに比例して手間がかかってしまってはあまり意味がありません。この点についても、Pixeetは4回の撮影で全方位がカバーできるとのこと。これは期待できるかも?と思い、早速、社長に頼み込んで発注してもらうことになりました。

キットが到着!

注文から2日後にはキットが到着。決済はPayPalですが、発送は国内からなので、早いですね。主な中身はケースと魚眼レンズの2つ(写真左)。


実際にiPhoneに装着してみるとこんな感じですね(写真右)。魚眼レンズは、ケースとマグネットで接着する仕組みになっています。

早速、試し撮り

Step1 : 撮影の準備

App StoreからダウンロードしたPixeet専用アプリ(無料)を起動します。そう、実はこのアプリこそが肝心で、最適化された魚眼レンズと組み合わせて使用することで、少ない撮影回数で、より高画質なパノラマ写真を作成することを可能にしているのです。このアプリを立ち上げると、メニュー画面が表示されます。ここから「新規パノラマ」、「4ショット 球状パノラマ作成」へと進みます。最後に保存するアルバムを選ぶと、いよいよ撮影画面になります。

Pixeet
Pixeet

Step2 : 4回の撮影

撮影モードのユーザーインターフェースは工夫されていて、画面中央に見える正方形の枠に対して、垂直方向と水平方向のグリッド線がちょうど合うようにiPhoneの位置を調整します。これがピッタリ重なると、線が緑色に変わり、自動的に3秒のカウントダウンが始まります。位置を固定して3秒間持ち続ければ、写真のシャッターが下りて、無事、1ショット目が完了となります。その後、画面に右に回るよう指示が出るので、iPhoneを右に90度向けて、先ほどと同様に位置合わせを行ない、撮影します。このようにして、右回りで4回撮影が終われば、終了です。

Pixeet
Pixeet

Step3 : アップロードと合成

あとは、アプリからアップロードするだけです。4枚の写真をつなぎ合わせて1枚のパノラマ写真に合成する処理はPixeetのサーバー上で実行しているようで、ネットワーク環境が必要になります。3G回線ではちょくちょくエラーメッセージが出ているので、WiFi環境のほうが安定していて良さそうです。3~4分ほど待つと、自動的にpixeet.com上にページが生成され、そこにキューブ変換後のパノラマ写真を見ることができるようになります。もちろん、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディア上での共有も可能です。尚、より詳細な操作方法はこちらのヘルプページにまとまっています。

完成したパノラマ写真はこんな感じです。

なかなかきれいに撮れてますねー。次回の後編では、異なる方法で撮影したパノラマ写真との画質比較や、実ビジネスでの活用アイディアについてまとめてみたいと思います!