撮影隊の記録:ヒマラヤ=ブータン 中編

2011年5月

ブータン王国からお仕事もらいました

 カディンチェ株式会社の自己満足的な挑戦であった、昨年の「ヒマラヤ撮影隊」を振り返る本シリーズですが、本文に入る前にまずひとつご報告があります。
ご報告とは…。なんと、ブータン王国からお仕事をご発注頂きました!! わっしょーい!!
 僕たちのような超ウルトラ零細企業が、ヒマラヤの「王国」からお仕事を頂いたわけなのです。なんと光栄なことでしょう! 社長からの「ブータンの仕事、決まったよ」という報告に会社は沸き、興奮した私は鼻血をながし、メンバー有光さんは牛乳を吹いたと言われています。
 それにしても僕たちのような日本の零細企業がなぜこんな仕事を頂けたのかと言うと。それは、「愛」。ブータンという国に対する憧れと、並々ならぬ「愛」だったのです。「こいつらまたふざけてる」と、思う人が居るかもしれませんが、実話なんです。このコンペでの他社の提案は、価格や仕様、工期などが記載された通常通りのものだった(と思う)のですが、僕たちの提案はイキナリ「ブータンへ送る愛とメッセージ」から始まります。昨年の「ヒマラヤ撮影隊」で感じたことや思ったことを提案内容にふんだんに盛り込み、資料の最後もやはり「愛」で締めくくりました。そしてそのメッセージが、ブータン政府の皆様の胸に、「どーん」と受け止められたのです。多分きっとそうなんです。
 そんなわけで、「ヒマラヤ撮影隊」の取り組みは、1年の時を経てさらに大きな挑戦へと発展してきました。うーん。行って良かったなぁ。

オグロヅルの飛来する神秘の谷


 前回の記事で、「マイナス8度のファームステイ先」に到着しました。翌日は、この家で暮らす人々の生活や慣習、どこかなつかしい感じのする渓谷の風景を、スペースバズーカで撮影していきました。左の写真は午前8時の村の風景。この時間になって陽があたってきても、凍った洗濯物はカチコチのまんまです。よく見るとほとんどの家の軒先で洗濯物が凍ってました。干してるんじゃなくて、洗ってるのかな。。一度凍らせると汚れが落ちる、みたいな。
 この日は快晴。透き通るような青空に、渓谷を敷き詰める美しい緑の絨毯は、いままで見た他のどの景色にも例えることのできない素晴らしい景観美をつくりだします。写真でも動画でも伝え切れないその美しさを、高画質パノラマによるヴァーチャル・ツアーにしてみました。これ↓

伝統的な生活と、近代文明


 ファームステイ先でお世話になったベム・シンレーさんによると、この村で初めて外国人を見たのは8年程前とのこと。それまで「外国」というものがあることは知っていたが、遠い遠い世界のことだと思っていたそうで、初めて欧米の人に会ったときは、おったまげたそうな。僕たちが訪問した頃のポプジカは、電気が来てない(自家発電機のみ)。電線を引くことで自然環境に影響を及ぼしてしまうと、オグロヅルが来なくなってしまう可能性があるから、この近辺は環境保護政策の対象地域。住民もそれに賛成しているから、電気が来てないそうだ。最近では、環境に影響を与えない方法(地中に埋設)で電気を通す計画もあるそうだけど、もし電気が使えたら今の暮らしはずっと楽になるだろうに、自然との共存を優先して昔ながらの生活を受け入れるという姿勢に、ものすごく関心してしまうわけなのです。
 この時の撮影や様子は、以前ニュース・メディアの記事になりました。詳細はこちら。「どちらが幸福か? ブータン VS 日本」 (日本ビジネスプレス)
 

伝統的な生活と、近代文明


 ブータンという国は、他の先進国や文化圏にはない、独特の価値観を内包した文化がある。そして、日本やその他の都市圏からはアクセスの難しい(飛行機でビュって飛べば、ティンプーまではすぐ着くけど、気持ち的に)秘境でもあります。この国のそんな有り方は、様々な意味で日本との類似点や、比較対象になる点があるように思うのです。ブータンと接することで得られる知識や気づきや気持ちは、僕たちの国日本を良くする何かにつながるような気がするのです。そんなブータンを「伝える取り組み」として、僕たちの技術がお役に立てるような気がしています。
 冒頭の「ご報告」もあったので、今回はこの辺りで。




最後に、いぬ。ブータンではなぜか犬もやさしそうに見える。


yasuhiro ichikawa

発売から5ヶ月:Kinect ハックまとめ

2011年5月

Kinect発売から5ヶ月

 Kinectの発売から約5ヶ月。世界中の新しいもの好きエンジニア達の様々な取り組みも、なんとなく一巡したような感じがあります。YouTubeには、「Kinect ハックの5ヶ月間のまとめ」的なビデオが投稿されていました。Kinect Projects – The first 5 months
 Kinectがエンジニア達の心をつかんだ理由は色々あると思うけど、この短期間でこれほどたくさんの作品が生み出されたデバイスとゆうのは、これまであまりなかったんじゃないかと思います。そこで、僕たちカディンチェの視点から、この5ヶ月のKinectハックを振り返ってみたいと思います。

空間モデリング系


 カディンチェ技術とも関連性が深い「空間モデリング」という切り口。まずは、発売後すぐに話題になった、3D Video Capture with Kinect。最初にこのビデオを見たとき、何やら異質な見た事のない動きに直感的に感動しました。そして圧巻だったのがこれ、「Autonomous Flight with a Kinect by MIT CSAIL」。Kinectを使った小型ヘリの自律飛行。飛行しながらKinectが取得した画像と深度を元に、3D空間へのマッピングまでしちゃってます。これはもう彼らの動機に驚いた。普通飛ばそうとは思わない。「小型で安価だし、仮に落ちても弁償すればいいよね」という会話がMITの学生の中であったかどうかは分かりませんが。さすがMIT。

新しい操作方法


 マウスやキーボードを触らない、つまり人間が直接的にデバイスを使わない新しいコンピュータのインターフェースとしても、Kinectは様々な実験環境を提供してくれました。例えばこうゆうの。「Kinect Hand Detection」。従来マウスでやっていたことを、フィジカルに置き換えるという視点かな。色々なやり方が生まれては試され、本当に「やりやすい方法」だけが、今後残っていく気がします。
 コンピュータだけではなく、「ロボットを操作する」という作品がこちら。「Control the Humanoid Robot by Kinect」。この作品の本当にスゴいところは、作者の方が自作したロードバランス・エンジンなんですが(本当にスゴい)、この操作映像に僕は大きな衝撃を受けました。ロボットを操作する場合、「リモコンで操作(鉄人28号・タイプ)」、「コックピットで操作(ガンダム・タイプ)」、「コックピット+脳神経とのリンク(エヴァンゲリオン・タイプ)」など色々な手法が考えられてきましたが、僕が最も憧れていたのはこの、「操縦者の動きがそのままロボットの動きになる(魔神英雄伝ワタル・タイプ)」だったのです。そしてガンダムも大好きだった僕は、「ワタルみたいにモビルスーツを動かしてみたい」と夢想していたものでした。なのでこの動画には「グッ」とくるものがありました。

拡張現実


 アニメの話とか書くとまた怒られるので、次。AR(拡張現実)系。これまた色々な作品やデモがあるわけですが、僕がまず好きなのはこれ。「Real time lightsaber on the Kinect on PC」。…スターウォーズが好きなんです。どうしようもなく好きなんです。この映像、ライトセイバーの動きがとても自然。制作者の方も、きっとスターウォーズ・マニアなんだと思います。ライトセイバーの扱い方を「知ってる人の動き」です。
 まじめな事例としてはこうゆうのもありました。「Augmented Reality Magic Mirror using Kinect」。身体の中が透けて見える、とゆうヤツです。CTスキャンして構築した本物の3Dデータを使っているのかな。検査結果の説明なんかでもしこうゆう見せ方をされたなら、先生と一緒に画面をみるよりもずっとリアリティを持って、自分の健康と向き合える気がします。

おしゃれ系


 純粋な表現としての活用や、アート作品としても、Kinectのハックは盛んです。「DaVinci prototype on Xbox Kinect」のようなお絵描きツールや、「Kinect Ballpool」みたいに、インタラクティブなゲームなど、子供や若者に喜んでもらえそうな作品も多い。「Interactive Puppet Prototype with Xbox Kinect」のように、作り込んだグラフィックスを、身体を使って操作するというシンプルな体験ですら、PCの画面とマウスで操作するのとは全く違った新しい感覚を得ることができます。用途や目的にとらわれず、新しい手法や発想だけを意識して作る表現やアート作品は、今後もう少し出てきてほしいなと思っています。

最近のカディンチェとKinect

 とゆうような感じで、カディンチェの視点というよりは、ごく個人的な視点になってしまいましたが。。。
新しい体験というのは、話を聞いたり、動画を見たりするだけでは、伝わり切らない「第六感」的な部分が確かにあります。いきなり目の前のリンゴが天井に向かって「落ちる」なんて現象が発生したら、すげぇびっくりすると同時に、なんだか言葉にできない不思議な気分になるはず。その「不思議な気分」とゆうのは、実際に体験してみないと分からない。Kinectによる新しいインターフェース、それを活用した新しい操作方法や仕掛けは、きっとそうゆう領域に属する体験なんじゃないかな、と考えています。
 さて、カディンチェですが。日々の仕事に追われながらも、少しずつKinectと仲良くなってきた今日この頃です。年内にはKinectを使った非常に楽しみな案件も…実現するかどうか分からないですが、ありそうな予感がしています。次回のKinect関連記事では、Kinectのスペックや技術的な考察なども交えて、書いてみたいと思います。


 ←おまけ。Tomoto S. Washioさんが作ってくれた Kinect-Kamehameha を試すカディンチェ。スパーキン!!
 


yasuhiro ichikawa

撮影隊の記録:ヒマラヤ=ブータン 前編

2011年4月

世界一幸せな国ブータン


 国民総幸福量(GNH)という国家指標を掲げ、伝統文化を保護しながらも独自の発展を目指す神秘の国ブータン。左の写真はそのブータンの旧首都があったプナカという街。中央に立つ建築物は「ゾン」と呼ばれます。各都市に建設される政治と宗教の中心地であり、時に城塞としても利用される、ブータン国の象徴的な建築物。プナカ・ゾンは水の色が違う二つの川が交わる中州に建造されています。
 ネパールでの撮影を終え、ブータンへ向かったヒマラヤ撮影隊。ブータンは年間の外国人渡航客の数を制限していることもあり、まだまだ未知の文化を残す秘境として知られています。

ゆったり・やさしいブータンの皆様、撮影もまったり


 ネパールと同じヒマラヤの隣国ですが、人ごみと喧噪の中 視線の激しく絡み合うカトマンズとは違い、街角の人も、僧院のお坊さんも、ガイドさんも運転手さんも、みんなとてもゆったりしているブータン。時間の流れが全然違うような気がします。観光地に人も少なく、撮影にもじっくり取り組めます。
 ブータン滞在は3日間。撮影だけではなく行政機関やツーリズムとの商談など、様々なイベントを楽しみました。初日はプナカ・ゾンを撮影し、ファームステイ先の「ポプジカ」という山村へ移動。会う人会う人が笑顔で迎えてくれるし、みんな ゆったり・やさしく流れる時間を楽しんでいるように見えます。外国人は珍しいようですが、ジロジロ見たり急に声をかけたりはしない。一歩引いたもてなしとゆうか人との接し方が、日本人の感覚に近いような感じがします。


 スペース・バズーカというマシンは、1回の動作で18枚の写真と周囲の形状情報を取得します。写真は1方角につき3枚、自動的に露光やシャッタースピードを調整して撮影した後、60°回転。それを6回繰り返すことで360°全方位の写真を撮影。さらに次の1回転で半径15メートル程の形状をレーザーセンサーで取得します。この動作を、簡単な設定で自動的にやってくれちゃう優れものなのです。だから通常の撮影時は撮影場所を決めて、カメラの基本設定を決めたら、ボタン「ぽちっ」とするだけ。しかしブータンという国の空気は不思議で、人の心にゆとりを与え、普段やらない手順を踏ませることがあります。この写真は、機材の設定や調子を、念入りに調整する弊社内田専務。すげー真剣な顔だ! ゆとりがあるからこそできる顔だ!

移動中に岩盤落石…。


 「ポプジカ」への移動で、日本でいうところの東名自動車道を走行中、岩盤落石事故があり立ち往生。東名道を塞ぐ巨大な岩石たちを、「ダイナマイトで吹き飛ばすから、ちょっと待ってて」ということでした。「東名道」にあたる道路に、「岩石」が落ちてきて、「ダイナマイト」で爆破、と聞いた時、失礼ながら。。「あぁ、遠くまで来たなぁ」という感じがしました。。。まぁでもこういう場合も、この国の人たちは、慌てたり、イライラしたり、怒ったりはあんまりしません。

ブータン西部の農村部・ポプジカの夜


 東名道の爆破などもあり、目的地に付く頃には陽が暮れ始めていました。標高が高いせいか気温もぐんぐん下がってきたため、この日は撮影を諦め、とにかく急いでファームステイ先を目指すことに。延々と続く悪路と寒さに、昼間までの余裕はすっかり失せてしまったヒマラヤ撮影隊ご一行。。しかし今思うと、谷間の一本道に山々の稜線が折り重なり吸い込まれていくようなその景色に、少しずつ霧が立ちこめ陽が暮れてゆく刹那のこの瞬間を、なぜ撮影しなかったのか非常に悔やまれるっ!!というような美しい風景でした。
 そんな風にしてブータン撮影の1日目が終了。ファームステイ先の温かくて美味しい食事(激辛)と地酒を頂き、身体もあったまったところで、一同寄り添うようにして就寝しました。氷点下8度。すきま風びゅんびゅん。

おまけ


 そういえば、撮影日前泊のブータンのリゾートホテルで、トイレに入ったら鍵が壊れて 中に閉じ込められたメンバーがいました。頑丈な扉なので鍵を壊して脱出することもできず、真夜中に約1時間、トイレに籠っていたそうです。写真はトイレの換気扇から、非常食の差し入れを要求する井村さん。思い返すと、ハプニング続きの撮影紀行だったな。
 

Kinectいじり

2011年3月

フィジカル・コンピューティングへの取り組み

 先月、カディンチェのオフィスにKinectが到着。Microsoft社のXbox360用に発売された入力デバイスですが、RGBカメラ、赤外線による深度センサー、マイクロフォンが搭載された次世代デバイスがわずか150ドル程度で手に入るとあって、発売から約半年、世界中のエンジニアがこのデバイスをハックして、面白い取り組みが次から次へと世に出るようになってきたところ。
 たとえば、Kinect発売当時から様々な作品を紹介するhttp://kinecthacks.net/では、アーティスティックな作品からおバカな作品、ビジネス向け作品や野心的な作品まで、ありとあらゆるKinectを活用した新しい取り組みを動画でみることができます。
 マウスやキーボードを使わない「フィジカル・コンピューティング」という言葉は、多分僕が大学生くらいだから8年前?、くらいから頻繁に聞かれるようになった言葉。「人に優しいコンピューティング」「直感的な操作」「デバイスを意識しない」「人間の脳とコンピュータのシームレスな連携」云々。。。僕なんかがそういうキーワードを聞いて連想するのは、「攻殻機動隊」や「電脳コイル」の世界で、すぐにSFチックな妄想に行き着いてしまうのですが、そういった世界の一部分が少しずつ実現され始めている。その中のひとつとして、Kinectを使った新しいチャレンジが注目されているのです。

Kinect到着


 そんなKinectですが、当然うちのエンジニア達から見ても魅力的なデバイスだったらしく、ことあるごとに「Kinect 触ってみたい」「Kinect で遊んでみたい」「Kinect..Kinect…」という言葉が聞かれるようになりました。そして先月、弊社青木が「え?Kinectってそんなに安いの?」ということに初めて気がつき、「よしお前ら、そんなもの10個くらい買ってやる!」てな感じでビシッとご発注。晴れてKinectいじりが始まったわけです。
 まずは大体の使い方を習得して、デバイスとしての精度を確認、その後いろいろな実験を繰り返し、この1ヶ月間でだいぶ。。。見た目も汚れた。。そろそろKinect活用の方向性を定めて、具体的な企画を考えてみようかな、というところです。

カディンチェにとってのKinect


 カディンチェにとってKinectの何が魅力的だったかというと、前述した「フィジカル・コンピューティング」の簡易的な実験がまずひとつ。それから、従来から弊社内で開発している「3次元モデリング」の「3Dスキャン技術」をベースにした応用的活用を試してみたいという点がありました。
 「リアルとサイバーの融合」を考える上で、「どこまで実空間の情報をサイバー上に再現できるか」という点と、そのサイバー空間と人間との接点を、「どこまでリアルの感覚に近づけられるか」という点が当面の大きなテーマです。

 デモや今後の実験結果などを、今後Webで紹介していきたいと思います。今日はまずひとつ。先日「プラザスタイル カンパニー」様にてご採用頂いた弊社新サービス「パノラマ・ヴァーチャル・ショップ」ですが、現在Kinectによるジェスチャー操作を試しているところです。以下の動画は、手の動き(手を振る、とめる、前に突き出す など)だけで画面を操作できるようにしたサンプルです。もっと日常的な動作でヴァーチャル空間を操作できるようになれば、今よりずっと奥深い没入感を実現できるのでは。。。「ヴァーチャル空間」+「フィジカル・コンピューティング」に関する研究にも、今後取り組んで行きたいと考えています。


撮影隊の記録:ヒマラヤ=ネパール 後編

2011年3月

歴史と文化と喧噪の街

 最近、同僚の井村くんに借りた「アンチャーテッド」というゲームにハマりました。ネパールのカトマンズを舞台にしたアクション・ゲームなんだけど、街の雰囲気や特徴を上手に再現しています。ゲームの中のカトマンズは、設定が「戦場」になっているのでなんだか散らかった印象なのですが、実際のカトマンズは戦場でもないのに本当に散らかっています。。カトマンズに人口が集まり過ぎて、ここ数年 社会インフラの整備が追いつかないらしい。そのため都市部はほぼ定常的に輪番停電、ゴミの収集が追いつかないためあたりにゴミやら何やらが散在、道路はいつでも大渋滞、デッドロックなんて当たり前。そんな中僕らは、カトマンズを東奔西走。ネパールでの撮影最後の1日、限られた時間の中で撮影を続けたのであります。

ネパール最大のヒンドゥー教寺院:パシュパティナート。

 カトマンズの東側、観光地としても有名なパシュパティナート寺院。敷地内を流れるパグワティ河は、ガンジス河の支流で、多くのヒンドゥー教徒がこの寺院を訪れます。敷地のちょうど中央あたりで行われる火葬が有名で、焼かれた灰がパグワティ河に流されます。火葬の脇で洗濯しているおばちゃんが居たり、そこかしこで身を清める人が居たり、この場の特殊性が観光客に人気の理由みたい。僕はここに来たのは2回目だけど、火葬場の様子は何度見ても衝撃的。ちょっとくらい焼け残ってもそのまま流しちゃうから、焼け残った体の一部が河の中に浮いていたりします。

丘の上の寺院:スワヤンブナート

 今度はカトマンズ西のスワヤンブナート。仏教寺院です。カトマンズ盆地はその昔、湖だったという伝説があり、その頃この丘は湖に浮かぶ唯一の島だったという言い伝えがあります。最近の調査で、カトマンズが湖だったというのは本当らしいことが分かったみたい。なんだかノスタルジック。
 撮影場所は当然観光地が多いので、とにかく人ごみをかき分け、ゲリラ的に撮影という慌ただしい工程が続きます。観光地と言っても、カトマンズの場合は大多数がネパール人。そんな人ごみの中で、おかしな機械(三脚の上でウィンウィン・ぐるぐる動くスペース・バズーカ)を使い、バタバタと撮影する日本人の一行は、とても珍しいモノに見えるようです。

 なので撮影をしているとすぐに人に囲まれてしまいます。日本だったら、珍しいことをしていても「ちらっ」と見られたり、「ごにょごにょ」っとささやかれるくらいなものですが、こっちの人はそうじゃなくて、遠慮なく近づいてきます。子供も大人も珍しそうな顔で寄ってきて、「じーっ」と機械や僕たちを見つめます。「ちょっとオレっちにも触らせてくれよ、その機械」とか、今にも言われそうな感じなので、目が合ったら曖昧な笑顔でごまかします。

最後はパタン

 
 最後はパタン。カトマンズの南、古代の都市。カトマンズで最も古い都市、荘厳な建築物や美術品に溢れた街。当初僕たちはこの日、8カ所で撮影をする計画だったけど、当然そんなスムーズに進むわけがなく、4箇所目のパタンに到着した頃には、もう陽が暮れかけていました。でも返って、それが良かった。陽が沈む前のパタンには、確かに神聖な空気と、奥深い歴史を肌で感じることができました。青白く輝く光の粒子が、街中から湧き上がってくるような感じ(錯覚だけど)。急いで撮影を開始し、何とか陽のあるうちに6カ所ほどの風景を収めることができました。
 今回の記事でご紹介した撮影場所のパノラマ写真ですが、こちらのページに一部を掲載してみました。後になってパノラマ写真やヴァーチャル・ツアーを見てみると、あの時に体験したその場の雰囲気や情景を生々しく思い出す事ができます。しかし、実際に行った事がない人に見てもらったときに、その雰囲気や情景をどこまで伝えることができるか。。画質や機能だけではなく、周囲の音や温度感など、もっともっとリアルな空間をありのままに再現することができないだろうか。うちの会社ではそんな研究を日々続けております。

次回はブータン突入

 ちょうど1年前に実施したヒマラヤ撮影ツアー。ネパールでの撮影を2つの記事に分けて振り返ってみました。次回からは撮影の後半、ブータンでの出来事を思い返してみたいと思います。
 そういえば、最近また撮影のご依頼が増えてきました。パノラマ撮影、ヴァーチャル・ツアーの作成は、こちらからどうぞ。パノラマ写真を利用した、「パノラマ・ヴァーチャル・ショップ」なるサービスも開始しました。詳しくはこちらから!

上海・杭州視察を振り返る

2011年2月

中国へ行った理由

先日3泊4日で中華人民共和国の上海と杭州に視察に行って参りました。中国と言えば、経済発展が著しくあらゆる大手企業が中国進出し始めていますよね。そんな状況で、カディンチェも指を加えて見ているわけにはいきません。これは、熱烈歓迎中国に実際に行って、巨大金儲け産業を起こさねばと思ったわけなんです。

上海

まずは上海。中国の商業的な中心地です。いろいろ大きいです、道路の幅も、ビルの高さも、人の多さも(人口1900万人)。街を一見しただけでそのマーケットの巨大さには気づきます。また、ここでは日系コンサルティングファームの方にお話を伺い、

  • 中国では、まずはプロジェクトを見つけ、ソリューションを売れ
  • 外資系法人を立ち上げるのは税金が高いので、合弁の公社を創るべし
  • 人件費は一人75,000円/月ぐらいなので、ベンチャーでも進出可能
  • ゼネコン・ディベロッパーの進出が著しい
  • AR / Sensor Network / Traceability by RFID等は注目されている

とのことでした。なるほど、ふむふむ、勉強になります。


杭州

そして杭州。西湖という大きな湖がある風光明媚な古都。とはいえ、ここも人口700万人で横浜市(370万人)の倍。上海に比べるとのんびりしたように感じますが、上海と新幹線で結ばれていて、今後のポテンシャルは高いです。ここでは、現地の大卒技術者にお話を伺い、

  • 中国がいま求めているのは、お金ではなく技術やソリューション
  • スマートフォンへの関心は高いが、iPhoneなどは高価で手が出ない
  • それでも多くの人がすでにAndroidやNokiaのスマートフォンを使用してる
  • 大学や大学発ベンチャーには政府資金やベンチャーキャピタルからの資金が入る
  • 観光地でもカメラを持ってない人が多く、写真撮影・印刷屋がいる

とのことでした。なるほど、ふむふむ、勉強になります。



まとめ

さぁ、カディンチェの中国進出ですが、まだその準備が出来ていない。

  • 日本のマーケットで受けるものを、中国に持っていきたい
  • もう少し現地の商習慣・会社法を勉強したい
  • 一部ネットサービス(Twitter等)に国内からアクセスできないのは怖い

といった結論でしょうか。なにはともあれ、継続的に検討をし続けたいテーマになりました。



撮影隊の記録:ヒマラヤ=ネパール 前編

2011年2月

ヒマラヤへ行った理由

 ちょうど去年の今頃でしょうか。僕らカディンチェメンバーは、全社員をあげての「ヒマラヤ撮影」に繰り出したことがあります。青木社長の「お前らも一度行ってみるか?」の一言で決まりました。もともとみんな旅行好きだったりアジア好きだったりしたこともあって、「なんで急にヒマラヤなの!?」という議論や検討は一切なく、約10日間のネパール・ブータンツアーが速やかに企画・実行されました。「世界中を3Dスキャンしてやる!」という壮大な目標を持って、僕たちはまずヒマラヤの秘境を目指したのでした。「撮影隊の記録」という記事を思いついたからには、この時のことを書かないわけにはいきません。

前途多難な撮影はじめ

 旅程は10泊10日。前半はネパール・カトマンズ周辺の撮影を行い、後半はブータンへ渡り各地を周遊するというものでした。ひとつでも多くの遺跡史跡を撮影したい。この貴重な機会を最大限に活かすべく、分刻みのスケジュールを敷いて撮影に挑みました。そして向かった最初の撮影地。最初の撮影前に。。。
スペースバズーカを。。壊した。。。

三脚の高さを間違えて、回転する自身の遠心力に耐えられなくなったスペースバズーカが横転したのでした。。慌てて皆が駆け寄ると。。三脚が折れてケースが割れて、振ると「からんからん」という不気味な音を鳴らしています。あのときのメンバーの白い目を忘れられません。。撮影担当でスペースバズーカを操作していた僕は真っ青になり、必死に言い訳を考えました。まさかこの僕のせいで、この「撮影紀行」は台無しになるのではないか。なんとか誰かのせいにできないか。。何か良いとんちはないものか。。

とりあえず復活したスペースバズーカ

 とにかく三脚が折れてちゃ話にならんので、近くのカメラ屋のおっさんに三脚を修理してもらい、スペースバズーカを装着し直してスイッチを入れてみたところ、ちょっと挙動不振なところはあるものの、キチンと動くことが分かりました。よかったよかった。ホントに良かった。気を取り直して、ネパール最大規模の寺院で世界遺産にも登録されている「ボダナート広場」へ。ドーム型の寺院を中心に、周囲を囲む敷地から計12カ所の撮影を行いました。天候にも恵まれ、ネパールの友人達の強力なサポートもあり、撮影は順調に進行。ヒマラヤに来てよかった。機械が壊れてなくて本当に良かった。実は撮影中に機械が上手く動かないことがありましたが、そんなことは気にしない。壊れてたら僕のせいになっちゃうからね。

撮影しながら一生懸命観光

 この日の撮影はもう一カ所。カトマンズ近郊の古代都市、バクタプルです。ここは街全体が世界遺産に登録されていて、そこかしこに古い時代の名残りを感じる事ができる素晴らしい遺跡。世界遺産に登録され、ネパール政府が積極的に保護活動を行いながらも、いまもなお普通に人が住んでいて、生活しています。アジアって結構そうゆう場所が多い。カトマンズは特にそういう場所が多い気がします。文化的に、歴史的に貴重な遺産として登録されていて、政府が保護して観光地化していて、観光客がわんさか訪れているのに、現地の人はごく普通にその場所で生活している。「ユネスコ?知らねぇな。」ってゆう雰囲気のおじさんとかを見ると、物珍しそうにキョロキョロしている自分たちは、なんだか場違いな気分がしてくるものです。。観光地なんだけどね。いろいろな場所から撮影しながらも、ネパールの友人の解説を聞き、その場の風景を目に焼き付けるのに必死でした。

こんな感じで数回書きます

 こんな風にして、突撃撮影を開始したヒマラヤ撮影隊。当時撮影したコンテンツなども含め、数回にわたって紹介していきたいと思います。ネパールで撮影したパノラマの一部をこちらのページに載せてみました。次回はネパール後編として書いてみたいと思います。

 そういえば、この日の夜に分かったことですが。。スペースバズーカを壊しそうになった直後に撮影したパノラマ写真は、ピントがぼけていて使えませんでした。。なぜなら僕が慌てていて、ピントの調整を失念したからです。。「ごめん、ピントがボケてて使えないや。。」と笑ってごまかそうとした僕に向けられた、みんなの白い目が未だに忘れられません。。

撮影隊の記録:高層ビルと文化施設

2011年1月

スペースバズーカのご紹介

 こんばんは、市河靖弘です。カディンチェでデザインやWeb制作を主に担当していますが、たまにパノラマやヴァーチャルツアーの撮影に繰り出すこともあります。撮影の相棒はこれ!(左写真)。弊社専務の内田和隆が自作したもので、スペースバズーカ4号という名前がついています。こいつにはレーザーレンジセンサーと一眼レフカメラ、360度自動で回転するモーター付きの雲台、制御装置などが搭載されていて、タブレットPCから操ることができます。パノラマやヴァーヤルツアーの撮影というのは、このスペースバズーカ4号を使って、空間のデータ(形状・画像)をスキャンするお仕事です。

高層ビルのてっぺん

 こんなマニアックな機材で撮影するからには、それなりの特殊な場所に行くことが多いわけです。思い返せばこの1年余り、スペースバズーカと一緒に色々なところへ行ったなぁと思います。下の写真は昨年末の撮影の時に撮ったものです。

 都内某所にある高層ビルの屋上。の、上に建てられた非常階段出口にあたる小さな小屋。の、上にあるはしごを更に登ったこのビルの一番てっぺんから、撮影してやりました。周りに冊とかなくて、くるぶしくらいまでの「デッパリ?」みたいな突起物が周囲を囲むだけ。広さ約4畳半。撮影中に三脚を押さえてないと機材が倒れてしまうくらいの強風でした。そんな危険な環境での、体当たり撮影!。僕と、スペースバズーカ4号が望む街並の彼方には、抜けるような青空と、建設中の東京スカイツリーが見えました。かっこいい!。この写真はスペースバズーカ4号のスナップの中でも、ずば抜けて男前に撮れた一枚だと思います。

都内某所の文化施設

 続いてつい先日の撮影ですが、都内某所でいくつかの文化施設をテスト撮影させて頂く機会がありました。誰もが一度は行ったことのある有名な複合施設なんですが、改めて行ってみると、美術館はあるし映画館もあるし、ホールや展示室もたくさんあって、うっかりしてると一日時間を過ごしてしまえそうな、とても素敵な場所なんだなと再認識しました。

 写真は、「ホール」を撮影したときのスペースバズーカ4号です。誰も居ない客席からステージを望むスペースバズーカが、これまたなんだか男前に見えて、撮ってみました。先の屋上で撮った写真よりも、若干大人っぽい印象がします。
 ホールやコンサート会場というのは、普段僕なんかが行く時には観客でごった返しているものです。しかしそれがこう空っぽの状態になっているのを見ると、なんだかすごく不思議なものを見た気分になります。小学校時代、早めに体育館に着いたら誰も居なかった時の雰囲気。。高校生時代、授業をさぼって誰も居ないプールで一人泳いでみた時のあの雰囲気。。誰も知らない(見てない)空間を独り占めするとゆうのも、その空間をこっそりスキャンしちゃうというのも、この撮影ならではのとても贅沢な経験だと思います。

撮影隊の記録


 「空間を記録する」「空間をスキャンする」「空間を再現する」というようなニーズは、その空間に何らかの特別な価値があるから発生するわけで、そこへ撮影に出かけるから、自然と「面白い場所」「珍しい場所」に行くことができるわけです。これは僕にとって何よりの楽しみなのです。「空間を記録する」というニーズには例えば、「すごく遠い」「すごく貴重」「普通入れない」「もうすぐなくなる」など色々あると思いますが、どういうニーズであっても「なかなか行けない面白い場所」であることには変わりがない気がします。せっかくなので、そんな「面白い場所に行った話」や、そこで聞いた話、知ったことなんかを、記事として残しても面白いかな、と思いました。

 ちなみに現在撮影希望中の「面白い場所(例)」は、以下の通りです。

  • 宇宙ステーションの中
  • 空母の司令室
  • 飛行機のコックピット
  • 原子炉の中
  • ディズニーランドの、一般人は入れないとこ
  • 文化施設や建築物の中で、人入れると痛むから普段解放してない場所
  • 売り出し中のグラビアアイドルさんのお部屋
  • 。。。。

切りがないのでこの辺で。。撮影のご依頼はお問い合わせページよりどうぞ!

ヴァーチャルツアーの営業を振り返る – その2 –

2011年1月

こんばんは、青木崇行です。

 前回の記事では、ヴァーチャルツアーというサービスを主に不動産業界に営業展開しようとした際に、私たちなりに感じたことや学んだことを書いてみました。確かに、ネットサービスが浸透している賃貸物件の情報サービスなどでは、ヴァーチャルツアーの導入は難しいでしょう。しかし逆に、以下のような業種では、可能性がありそうだということもわかりました。

売買中古物件・海外物件

 賃貸物件と比較して、中古の売買物件でしたらある程度の広告宣伝費をかけることが可能です。ここで敢えて「中古」とつけた理由は、新築物件では物件の建設時にすでに販売を開始、完成した頃には買い手が決まっていて、ヴァーチャルツアー等の撮影が入るタイミングがほとんどないからです。従って、既に建物が建っている中古物件であれば、ヴァーチャルツアーの撮影・掲載も可能です。
 また、特に潜在顧客がなかなか見学に来れない遠隔地(海外)の物件ほど、ニーズが高いと感じています。本来は、物件を直接見に来て頂かなければ不動産の売買は成立しません。しかし例えば地方に居ながら、引っ越し先である東京の物件を探す場合など、ユーザにとっては物件をより詳しく吟味して、実際に内見する物件を選ぶ事ができます。売り主にとっても、アプローチできる顧客層が広がるのではないかと考えています。

オフィスビル

 オフィスビルの場合は、撮影したコンテンツをウェブ上でお客様に公開するだけでなく、管理会社側で物件の社内管理用として利用するケースがあるようです。つまり一度作成したコンテンツが2つ以上の目的を持ったり、複数のユーザに使われるため、相対的にコストパフォーマンスが高くなるということです。また、オフィスビルの借り手側も、その賃貸契約をするにあたっての意思決定者が複数存在し、その複数人で検討するにあたりウェブコンテンツが有効に利用されるといった例もあるようです。オフィス来訪者向けの案内板として、デジタルサイネージで表示しても面白いですし、商業施設の場合にはお客さん向けの「フロアガイド」にも活用してもらえそうです。各フロアにヴァーチャルツアーをベースにした館内検索システムがあったら、人件費も削減できそうですね。

ホテル

 ホテルは、一度撮影すると改装工事がない限りずっとコンテンツが活用できるという点で、費用対効果が最も望める業界の一つのようです。すでに楽天トラベルプラチナコレクションのように、館内・室内の360度画像が見られるようなコンテンツの普及も始まっております。こういったコンテンツは、ホテルの優美さや雰囲気の良さをアピールするのに適しています。
 出張、旅行に限らず、近年の私たちの世代では、ホテルや旅館の予約をネットで行うケースがほとんどではないでしょうか。ホテルや旅館の写真、料金プラン、立地など様々な情報を確認し、予約を入れます。そしていざ現地に行き、当日部屋に案内されるまでは、なんとなく不安な気持ちなのは私だけでしょうか。ネット上の写真は限定的で視野も狭く、情報量が少ないため、「写真写りは良かったけど、本当はボロボロの部屋だったらどうしよう。。」と心配してしまうのです。パノラマ写真やヴァーチャルツアーであれば、良くも悪くも「現地の本当」に近い姿を伝えることができます。最初から「ここは悪い」と分かっていればがっかりすることもないですし、「ありのままを伝える」方がユーザにとってはありがたいサービスだと思います。

 弊社では3D計測を含んだ3Dモデル内のヴァーチャルツアーと、パノラマ写真による廉価版ヴァーチャルツアーの二つのラインアップご提供しております。これらの考察は、後者のパノラマ写真によるバーチャルツアーでは現実的になりつつありますので、現在は3Dバーチャルツアーの制作コスト削減に努め、世の中に普及するように研究開発を進めています。

 世の中もっと便利に、もっと面白くなるはずです。様々な業界の方のお知恵を借りながら、色々な事業にこのサービスを活かして行きたいと考えています。

ヴァーチャルツアーの営業を振り返る – その1 –

2011年1月

 本サイトでは初めてブログを投稿することになりました、カディンチェ株式会社代表取締役の青木崇行です。

 「ブログをはじめる」にあたって、どんな記事を書こうか少し悩みましたが、まずはカディンチェ株式会社がこの2年あまり積極的に取り組んできた、「ヴァーチャルツアー」について書いてみようと思い立ちました。本稿から3回程に渡り(たぶん)、ヴァーチャル・ツアーの営業活動で感じた事や、私たちが営業を挑んだ業界についての考察など、思い付くままに書いてみようかと思います。

ヴァーチャルツアーについての詳細は、こちらのページをご参照下さい。

 記念すべき第一回目の今日は、「ヴァーチャルツアー」の有力市場として私たちが見込んだ業界、特に「不動産業界」についてです。弊社では、大手不動産ポータルサイトを運営する会社様はもちろんのこと、公的機関の位置付けに近いREINS(不動産流通標準情報システム)の関係者様、デベロッパー様から街の不動産屋さんに至るまで、不動産業界に関わる様々な方々へ営業・ヒアリングを行いました。このような活動を通じて私たちが得た知見を共有させて頂きたいと思います。
 
 弊社では、室内空間3次元モデリングやパノラマ写真を用いたヴァーチャルツアー制作サービスを始めるにあたり、不動産業界、ホテル、文化遺産施設などを想定顧客として考えていました。室内空間を「商品」として提供している企業様に対してヴァーチャルツアー導入をご提案し、ウェブサイト上に掲載して頂くというのが狙いです。

 これは私たち自身が引越しのために不動産物件を探した時の実体験に基づいています。現在インターネット上に掲載されている物件の情報量だけではまだ不足しており、内見せずにもっと効率的にウェブ上で候補物件の絞り込みができないものかと感じたのです。また、このような問題意識に加え、不動産業界は取り扱う物件数が非常に多く、関連業者も多数存在していることから有望な市場ではないかと考えました。

 では、実際に約2年間に渡って不動産業界向けに営業をしてみてどうだったのか。結論から言うと、ヴァーチャルツアーを含むマルチメディアコンテンツの導入は簡単ではないということが分かりました。

1. コスト(広告宣伝費)

 賃貸物件では、不動産業者の売上は賃貸契約時の手数料(通常賃料の1-2ヶ月分)が主になっています。そしてこの手数料から人件費を始めとする固定費を賄うことになるために、物件1つあたりの広告宣伝に掛けられる予算はは数百円からせいぜい数千円程度になっています(物件の賃料にに応じて価格は変わります)。従って、営業担当者が物件に赴き、その風景をデジカメで撮影してウェブサイトにアップロードしたり、対面営業の際に印刷するのがやっとで、手の込んだ動画やヴァーチャルツアーにまでかける予算的・時間的な余裕がなかなかありません。

3. 撮影者・撮影時期

 通常の静止画像なら営業担当者でも撮影できますが、全方位画像や3D計測といった特殊な撮影は機材やスタッフという面である程度の技術力が必要になります。また、賃貸物件では借り手が決まった場合にはその物件のコンテンツは不要になり(再度必要になるのは物件が空いた時)、コンテンツの再利用性が低くなってします。まとめると、ヴァーチャルツアーなどの撮影は外部業者に委託せざるを得ないが、その撮影時期は必ずしも定期的ではなく、コンテンツの入れ替えが激しいというのが賃貸物件の特徴になります。

3. 現場主義

 部屋の特徴や街の雰囲気は現地に行ったほうが直感的に分かるというのは当然のことですが、お客様が不動産業者を訪問し、直接話をするというのは、それだけ営業トークのチャンスができ、その対話の中で強く契約を勧められるという利点があります。インターネット上のコンテンツだけで判断されては、そのような営業トークの出番がなくなるために、場合によっては潜在的な顧客を失ってしまうという危機感もあるようです。

確かに大手ポータルサイトなどでは、一部の賃貸物件にパノラマ写真が掲載されているものもあります。しかし、それも全掲載物件数の約5%程度に過ぎません。お客様視点では明らかに利便性の高いコンテンツであるにも関わらず、爆発的な普及に至っていないのは、上記のような背景があるからだと考えられます。

弊社では3次元モデリング技術の制作コストの低減化を図るとともに、パノラマ写真を用いた廉価版ヴァーチャルツアーに関しても付加価値をつけることで、今後も不動産業界ウェブサイトの3D化・パノラマ化に挑戦し続けたいと考えております。

さて、今回はヴァーチャルツアーの普及にまつわる課題面を中心に書いてみました。次回の記事では、逆にヴァーチャルツアーを積極的にご提案したい業界や業種、その理由や考察などを書いてみたいと思います。