ICELAND 2013 参加レポート

2013年6月



2013年6月11日から16日にアイスランドはセールフォスで開かれたICELAND 2013: The International Panorama Photography Conference (国際パノラマ写真会議)にスピーカーとして参加してきた。パノラマ写真のアプリケーションとして一般的に思いつくのはGoogle Streetviewであろうが、それ以外にも不動産の物件案内や観光地案内にバーチャルツアーが使われていたり、カーレースの様子をパノラマ動画で見せたり等、近年ネット上での利活用は盛んになって来ている。今回は約30のパノラマ写真関連の講演に対して約150人の参加者が、会場であるHotel Selfossに集った。それら講演の中から特に目を引いた8講演について紹介する。

パノラマ関連ソフトウェア: Kolor & VideoStitch

特に存在感を見せていたのがKolor社である。パノラマバーチャルツアーを作成するソフトウェアとして良く使われているのがKolor(フランス)のAutopanoやPanotourであるが、今回の会議でも製品の大きなアップデートを用意して来た。Autopanoではいよいよパノラマ動画用のオーサリング機能が充実し、Panotour Pro 2では静止画バーチャルツアーに対するリッチなコンテンツ付加等を可能にして来ている。また新発表であるKolor EyesシリーズではiOS端末でパノラマ動画を取り扱う為のソフトウェア開発環境を提供しており、いよいよパノラマ動画時代の到来を感じさせるものだった。

パノラマ動画の同期・スティッチに特化したスタンドアロンソフトウェアとしてはVideoStitch(フランス)がある。これは複数台のカメラを用いることで360度をカバーした動画撮影をし、それら複数の動画像を撮影後のポストプロダクションで同期・合成するソフトウェアである。アルゴリズムの洗練により正確かつ高速な処理が可能になっている。

パノラマ関連撮影ハードウェア:iSTAR & Roundshot

パノラマ写真を自動で撮影するカメラとしてはGoogle Streetviewの撮影に使われているLadybugシリーズが有名ではあるが、高価なため一般的なパノラマ写真業者や個人がそれを利用することは難しい。そういった企業や個人に向けたパノラマカメラから2種類を紹介する。

1つ目はNCTech(イギリス)のiSTARである。これは装置内に4つのカメラとレンズが配置されており、撮影からパノラマ写真の合成までハードウェア内で行うカメラである。比較的画質が良いのに加えて、今回の発表では動画対応の準備も順調に進んでいることが紹介された。


2つ目はRoundshot(スイス)のVR Driveで、これはギガピクセル写真を撮る装置Gigapan (アメリカ)のような自動撮影カメラ雲台である。動作が高速なこと、設定が細かく調整できることが特徴だ。またLivecamもラインナップにあり、360度のストリーミング配信を実現していて、すでにスキー場や飛行場の監視用等に発売している。

パノラマ動画用リグ: Freedom360Rig & 360Heros

この1年で急速に開発・普及されてきているのがパノラマ動画であり、その中でも複数のカメラをリグで固定して、後にソフトウェア処理で動画を合成する方式に使われるのがFreedom360Rig(アメリカ)と360Heros(アメリカ)である。ともにアクションカメラであるGoPro向けに設計された商品である。



パノラマコンテンツクリエータ: Airpano & Oceanview

全体の発表の4分の1を占めたのが各国のパノラマコンテンツクリエーターがそれぞれ特殊な環境で工夫して撮影したパノラマコンテンツの紹介である。空中、水中、世界で最も高いビルの屋上、ロケットの発射基地内、映画スターなどがそれらの対象である。

Airpano(ロシア)はパノラマ写真愛好家のグループであり、ほぼ毎月、世界の各地で空撮のパノラマ写真・パノラマ動画の撮影と公開を行っている。今回の発表ではアイスランド、インド、エベレスト等での撮影が紹介された。

Catlin Seaview Survey(オーストラリア)はそもそもは珊瑚礁の研究組織であるが、珊瑚礁の調査の一環で水中のパノラマ写真を撮影し、それがGoogle Oceanviewとして公開されたことで注目された。撮影には1眼レフカメラを複数台使用した撮影機材を使用して、重力がない水中だからこそ取り回しが出来る装置を使い高画質な写真を撮っている。

パノラマ写真ホスティング・クラウドサービス: Panoplaza

日本からは唯一の発表となった弊社の発表では、パノラマバーチャルツアーをウェブサービス上で作成しデータをホスティングするクラウドサービスとしてPanoplazaを紹介した。特にその利用者ターゲットをE-Commerceにフォーカスしていること、コンテンツクリエータとそのコンテンツを利用する企業クライエントがパノラマバーチャルツアーを共有できること、そして各種の実験的な機能が評価された。

写真や動画を360度に展開して利用するパノラマ写真・パノラマ動画はこれまでも各国のコンテンツクリエータにより作成されて来たが、近年はそれらクリエータを支援するハード・ソフト・サービスの充実が目覚ましく、パノラマ写真・パノラマ動画のさらなる普及が期待されている。ICELAND 2013はそれらの最先端企業・写真家・クリエータが集う会議であった。来年も同様の会議は予定されていて、ただいま開催地を検討中だそうです。弊社は、去年日本から参加していたパノラマクリエーター・ブロガーの二宮さんの紹介で参加することになったが、関心のある方は参加をお勧めします、とても面白かったです。

Panoplaza用ニュース表示・クローラー機能新開発

2013年5月

2012年12月に公開した「復興 屋台村 気仙沼横丁」バーチャルツアーにつきまして、新たにニュース表示機能を追加・更新したことをご報告いたします。

「復興 屋台村 気仙沼横丁」バーチャルツアーとは宮城県気仙沼市にある「復興屋台村気仙沼横丁」(以下、復興屋台村)をウェブ上に再現したバーチャルツアーで、復興屋台村に出店する15の飲食店舗と6の物販店舗の内部の様子を撮影した360度パノラマ写真をご覧頂けます。

今回はこのバーチャルツアー画面上部にニュースティッカーを表示し、復興屋台村の最新ニュースを繰り返し表示しています。また、ニュースをクリックすることで、具体的な内容について記したページに移動出来ます。ニュースの記事については、ブログやFacebookに投稿された記事をクローリングして、その概要を表示するようにしています。

同様の機能はその他のバーチャルショップ・バーチャルツアーでも実現可能ですので、お問い合わせを頂ければと思います。

復興 屋台村 気仙沼横丁」バーチャルツアー概要

  • サイトURL:http://www.fukko-yatai.com/guide/
  • コンテンツ内店舗数:21
  • 撮影地点数:22地点

制作協力

シムシティとビジュアライゼーション

2013年4月

シムシティ概要

今日は珍しくゲームについて。最近、発売されたシムシティ(2013年版)です。

シムシティ公式サイトより:『シムシティ』とは、箱庭の中でリアルに再現される「社会」で、プレイヤーが「市長」として自分の都市をつくり、市民の幸福と都市の発展を目指して様々な決断をしていく、「都市開発シミュレーション」ゲームです。

約20年前の中高生時代に初代のシムシティ(Windows 3.1 on IBM Thinkpadで動かしていた記憶があります)をやっていたこともあり、懐かしさもあって20年ぶりに最新作に触れる機会を得ました。で、このゲーム、空間表現技術に取り組んでいる弊社としては実に興味深いビジュアライゼーションの数々を見せてくれます。つまり単純にゲームで遊びたくてやったのではなく、これも仕事の一環・勉強の一環なのです(と言い訳がましく)。

ズーミング

自分がつくる都市の各パーツ(住居、商業施設、工場等)がすべて3Dとして描画されているので、360度全方向から眺められます。さらに、町を俯瞰的に見られるとともに、ズームをすることで住民一人一人の行動(出発地から移動先)までも表現されていたり、建物の細部まで作り込まれていることが確認できます。

ゲームならではの表現力豊かなビジュアライゼーションではありますが、ギガピクセルパノラマなどズーム機能を持ったコンテンツを提供している者としてはこのズーミングには圧倒されます。ズーム率によって見えてくる情報が変わってくるという模範例で、我々としても参考にしたい表現方法です。

俯瞰

ズーム

マルチレイヤー

また、都市においては、目に見える建物や交通機関だけでなく、目に見えない水道、電気、犯罪率、病院の普及率、幸福度も重要になってくる訳ですが、シムシティではレイヤーを切り替えることでこれらをすべて確認できるようになっています。

表面的なビジュアライゼーションの裏にある、多段的な情報の階層をとても綺麗に表現していると思います。こういったマルチレイヤーな情報表現なんかも、バーチャルショップ等のインターフェイスとして今後検討してみたい要素の1つです。ただ単にパノラマ写真を撮るのではなく、その被写体要素間の関係性表現など。

電気

上水道

下水道

ゲーミフィケーション

ソーシャルゲームが流行っていた頃、しきりにゲーミフィケーションが叫ばれておりましたが、ゲーミフィケーション以外にもこれらビジュアライゼーションなどゲームから学ぶことは多いですね。久しぶりにPCゲームをやって、少し熱中してしまった自分がおり、改めてゲームの力みたいなのを実感もしました。

soko aoki

ビジュアルマーチャンダイジング検討ツールとしてのパノラマ

2013年3月

マーケティングツールとマーチャンダイジングツール

先日、「ドン・キホーテ様がバーチャルツアー作成ツール、PanoPlazaの自社運用を本格的に開始-新店舗の空間をバーチャルツアー化し、社内で迅速に共有-」というプレスリリースを発表いたしました。Panoplazaはこれまで社外のお客様向けのPRツールやO2O(Online to Offline:実店舗への集客・送客)ツールとしての活用例が多かったのですが、上記事例は社内の「買い場作りを支える店舗演出や商品陳列などのノウハウを日本各地の店舗間で共有する仕組み」として利用頂いたのが特徴でした。社外向けがマーケティングツールとしたら、社内向けはマーチャンダイジングツールで、今回はPanoplazaがマーチャンダイジングツールとして利用されたことなります。

イメージ:ブータン・パロ空港のタラヤナ財団売店

インストア・マーチャンダイジングとビジュアルマーチャンダイジング

インストア・マーチャンダイジングとは店舗内で顧客の購買を高める科学的販売促進の方法で、ビジュアルマーチャンダイジングはその中でも店舗内における商品と顧客の接点を視覚的視点から検討・訴求する手法とのことです(はい、いろいろ調べました)。

売り場を作るにあたり、楽しい、見やすい、選びやすい、買いやすい、分かりやすい、触りやすい、清潔、豊富感があるなどは基本的な評価軸になります。また、店舗内を以下のような3分類にすることで、店舗全体で訪問者へのプレゼンテーション効果を最大化するそうです。

・ビジュアルプレゼンテーション(VP):ファサード、ショーウィンドウ、レジバック
・ポイントオブセールスプレゼンテーション(PP):プロモーションスペース、柱巻き
・アイテムプレゼンテーション(IP):ゴンドラ(プロパー棚:通常の商品棚)

こういった3つの場を作ることで、来訪者の心理変化を誘導し、購買決定に導きます。また、アイテムプレゼンテーションだけでも主力商品・準主力商品・補助商品や、価格訴求商品・シーズン訴求商品・新商品訴求商品・企画訴求商品等の分類があるなど、棚割り(プラノグラム)の奥も深いようです。

なるほど、こう見てみると店内を移動でき、視点も変えられるバーチャルショップはビジュアルマーチャンダイジング検討に有用そうです。パノラマ撮影の際には視点を来訪者の平均身長に合わせて、見え方をリアルに近づけるようにしています。

ビジュアルマーチャンダイジング検討ツール

こんな重要なビジュアルマーチャンダイジングを感覚や経験だけでやっているわけはなく、やはり調べてみるといろんなツール・ソフトウェアが見つかりました。(日本語だとあまり見つかりませんが、英語でVisual Merchandising Tool等で検索すると出てきます。)日本のある会社では、表計算ソフトを使用したり、店舗に設置された監視カメラを使用したりもしているようです。ただ、実写のパノラマを使った例は見つからず、Panoplazaの今後の展開の可能性も大きそうです。訪問者の移動履歴のセンシング、POSデータと棚の関係解析、それらデータのパノラマ上へのマッピング・ビジュアライゼーションなどが出来ると、さらに進化しそうですね。

soko aoki

3Dプリンタでカメラマウンタを制作

2013年1月

メイカーズ・3Dプリンタ

クリス・アンダーソンさんの書籍「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」が話題になっています。すでに読まれましたか?この本の通りの未来が来るかどうかは議論があるようですが、まずは話のタネに読まれることをお勧めします。

オープンソースのデザインと3Dプリンタを使って製造業をデスクトップ上で展開している。カスタム製造とDIYによる製品デザインや開発を武器に、ガレージでもの作りに励む何百万人という「メイカーズ」世代が、製造業の復活を後押しする。ウェブのイノベーション・モデルをリアルなもの作りに持ち込むことで、グローバル経済の次の大きな波を起こすのだ。世界規模で進行する「メイカームーブメント」を決定づける一冊。

うん、確かに私もワクワクしましたし、当社のCTOなんかはワクワクを通り過ぎて、「3Dプリンタ欲しい!」と言い出しました。そこで、当社では個人が自由に使える予算があるのですが、その予算を使ってMakerbot社のReplicator2という3Dプリンターを調達いたしました。

3Dプリンタ:Makerbot Replicator2

3Dプリンタが動いている様子、これは未来です。プラスチックが積層されることで、オブジェクトが出来上がってくるのです。動いている様子を見ているだけでも楽しいです。もちろん、機種によっては複数の色を使えなかったり、精度が悪くて変な出っ張りが出来たり、そもそもプリンティングに時間がかかったりもします。けど、技術の萌芽期なんてのはこんなもんですし、すでにこのレベルでも十分に使える・遊べるのです。

3Dプリンタでカメラマウンタを制作

じゃあ、この3Dプリンタを使って何を作るか?私自身も「会社のロゴマークを3Dで作ってキーホルダにする?」などという安易なアイデアしか湧かなかったことを正直に告白しますが、そこはCTO、見えてる可能性がより広いです。「パノラマ撮影用のカメラマウンタを作ったよ」←完了形になっているところがポイントです。なお、設計にはOpenSCADというフリーの3D CADを使用したそうです。

当社はパノラマバーチャルショップの構築などで撮影出張をすることが多いのですが、既存のパノラマ撮影用の雲台・治具は大きくて重いのが問題でした。そこで、小型のミラーレス一眼レフカメラSony NEX-5Dシリーズ用のマウンタ(カメラを三脚に固定する為の部品)を3Dプリンターで作ることにしたのです。ちなみに同様の市販製品を買うと2-3万円はします。それを3Dプリンターで自作することで、設計制作時間数時間+材料費数百円。完成したのがこちらです。

3Dプリンタ時代のビジネス

どうでしょうか?試しに試験撮影をしましたが、しっかりと固定され綺麗に撮影できました。そしてプラスチックだから軽い。欲しいと思ったモノが、自分の所で作れるというこの手軽さ・便利さ。え、かっこわるい?たしかに無骨だし単色だけど、社内業務用なのでこんなんでいいんですよ。

こうやってモノを作ってみると、売りたくなるのは商売人のサガでしょうか(こちらのマウンタをご希望の方は当社問い合わせページからご連絡下さい)。このメイカーズ時代、こうやってニッチな部品や雑貨を作って商売をするというのも1つの手でしょうし、3Dプリンタ・3D CAD・3Dモデルの販売サイトなどの制作者補助の方で商売するというのもアリなんでしょうね。何はともあれ、このメイカーズな潮流は始まったばかり。今後も試行錯誤しながら、この時代を楽しみたいと思っています。

3Dプリンターの動作音とプラスチックが焼ける臭いが漂うオフィスより
soko aoki

ITベンチャーにとっての海外スタートアップイベント参加

2012年12月

Startup Asia, Echelon, ICT Spring, & Open Web Asia

2012年はカディンチェ・Panoplazaにとっては、海外スタートアップイベントによく参加した年になりました。
・2012年2月: Startup Asia (シンガポール) プレゼンテーション+デモブース
・2012年6月: Echelon (シンガポール)デモブース
・2012年6月: ICT Spring (ルクセンブルク)プレゼンテーション+デモブース
・2012年12月: Open Web Asia (中国・海南島)プレゼンテーション
いまだにアメリカでのイベントに参加したことがないのは問題ですが、少なくともアジアやヨーロッパでは多少の経験も得られたので、日本発ITベンチャー企業にとっての海外スタートアップイベント参加について考察してみたいと思います。ちなみにイベントによっては、デモブースだけの出展ではあまり効果が出ないケースもあるかと思うので、プレゼンテーションにこだわるのも良いかと思います。

自社(サービス)の広報

ベンチャー企業にとっては、自社や自社サービスの対外的露出を上げることは販売や広報という視点から重要です。B2Cのビジネスであればより多くの潜在的ユーザに知ってもらう必要があるし、B2Bビジネスであればより多くの顧客候補との接点が必要になります。したがって、大衆の前でプレゼンテーションを出来るということは大変貴重な機会になります。また、こういった海外スタートアップイベントではメディアの方も参加しており、イベントについて記事を書かれることも多く、会場での直接的な露出だけでなく、後日メディアを通した露出というのも期待できます。

これらの海外イベント参加の費用対効果を考えてみましょう。開催地にもよりますが、参加費はだいたい3万円程度で、渡航費・滞在費は1人当たり約15万円、1社1名で参加した場合にはだいたい20万円弱の費用がかかります。一方で、日本国内のベンチャーや業界向けの雑誌等に広告記事を掲載する際には大体1ページ40-50万円したり、日本国内のイベントに参加した場合は30-50万円は最低でもかかってしまいます。日本のベンチャー企業の多くは日本マーケットを対象とするビジネスをされているので、国内での露出を増やすために国内メディアや国内イベントに投資するのは正当でしょうが、少し視点を変えて、海外で発表してそれを逆輸入して日本での露出を上げるという、凱旋的広報も手段の1つになるのではないかと思っています。

自社サービスのオリジナリティの客観的考察

他社との競争をすることで、自社をもっと知られるという効果もあります。海外のイベントではなおさらで、会う人会う人「お前はどこから来たのだ?何をしているのだ?」と聞かれるので、客観的に自分たちを見つめ直す機会になります。また、国によって流行っているサービスも異なり、日本や韓国などはネットワーク常時接続を前提としたサービスが、その他の地域ではネットワークにあまり依存しないサービスが流行っていたりします。おおざっぱな言い方をすると、日本などはインフラとしても消費者としても先進国であり、その他各国が数年後に経験することを先取りして経験をしているということからも、最先端として注目を集めます。

ただ、最先端であるサービスが経済的にも儲かるサービスという訳ではありません。中国や東南アジアの一部では、アメリカで流行ったサービスのコピー版がもっとも成功していたりします。この場合、起業家に必要なのはクリエティビティではなく、いかに良いものを素早く・完成度高くコピーできるかということになります。こうなってしまうと起業家にはオリジナリティを追求するモチベーションが減ってしまい、類似サービスがたくさん出てくるというツマラナイ状況になってしまいます。

マーケティングリサーチ

海外イベントに参加すると、自然にその国や周辺国での展開可能性についても考察してしまいます。自分たちが提供するサービスがその国で受け入れられるかというのは、イベントへの出展の正否にも繋がる訳で、その国でのネットワークインフラ、消費者環境、ビジネス状況等を考察しながらの参加になります。また特にアジアでのイベントにおいては、各国のビジネス環境の比較等は良く議題にあがる話題であり、それ自身が良質なマーケティングの第1歩になったりします。

また、同時に東京や日本が如何に恵まれたマーケットであるかを知る良い機会にもなります。購買力のある多くの人間や企業が集中しており、ユーザの多くが新しい物好きだったりします。先日の海外イベントで学んだのですが、オンラインゲームやスマートフォンアプリケーションに対して最もお金を使っているのは日本人であり、その規模はその他アジア各国の群を抜いています。また、そういったマーケット環境にあり、かつ以前よりテクノロジーに強い人が多い日本では、ベンチャー企業の多くが良質なのではと感じました。世界のイノベーションの中心がシリコンバレーだとしたら、アジアのイノベーションの中心は東京になれるのではないかと思ったくらいです(特に最近はGreeやDeNAの存在感が大きいですね)。

まとめ

以上のように今年の海外スタートアップイベント参加で学んだことをまとめてみました。ここで敢えてスタートアップイベントと述べたのは、スタートアップイベントを卒業した企業は、個別具体的なテーマを掲げているその他のイベント(広告系ならAdtec、家電系ならCESなど)に参加する方が良策かもしれないからです。弊社はまだそのようなテーマを絞り込んだイベントへの出展は行えておらず、場合によってはテーマ特化型のイベントの方が費用対効果は高いかもしれません。このあたりのテーマ特化型イベントや、アメリカでのイベントへの参加は今後の課題としてあげておきたいと思います。

Open Web Asia 2012でのプレゼンを終えた、中国海南島のホテルの部屋より
soko aoki

世界遺産平泉でのパノラマ撮影

2012年10月

被災地・気仙沼訪問の帰りに、岩手県平泉町に寄り、いくつかの寺院を撮影してきました。ちなみに平泉のWikipediaによる概要はこちらです。

平泉(ひらいずみ)は、岩手県南西部にある古くからの地名であり、現在の平泉町の中心部にあたる。
この地域一帯には、平安時代末期、奥州藤原氏が栄えた時代の寺院や遺跡群が多く残り、そのうち5件が「平泉 – 仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」の名で、2011年6月26日にユネスコの世界遺産リストに登録された。日本の世界遺産の中では12番目に登録された文化遺産であり、東北地方では初の世界文化遺産となった。

今回訪問・撮影できたのは、世界遺産に登録された5件中、中尊寺、毛越寺、観自在王院跡、無量光院跡の4件です。

中尊寺

毛越寺

観自在王院跡

無量光院跡

被災地の復興観光支援とともに、世界遺産平泉、おすすめです!

soko aoki

JATA旅博にて考えたこと

2012年10月

すでに数週間前の話になりますが、カディンチェがブータン政府観光局のウェブマーケティングの業務をしている関係と、私のネパールやブータンの友人が現地で旅行会社を経営していて今回も出展されている関係で、JATA旅博に手伝いにいってきました。旅博は前半2日間では海外と日本の旅行会社の商談会でして、後半2日間は一般のお客さん向けの展示会になっています。

海外からの出展者は大きく分けると2つに分類できて、政府観光局と旅行会社になります。政府観光局は一般のお客さん向けのプロモーションを目的としており、ブースではその国のイメージや商品をPRされていました。一方で旅行会社はもっと直接的な営業を目的としていて、一般のお客さんや旅行会社を対象に、それぞれビジネスに繋がる営業をしていました。旅行会社関係者は、前半2日間だけを目的として、後半は出展をさぼって観光に行ってしまっている人がいるくらいのモチベーションの違いも見受けられました。特に発展途上国の現地ツアーオペレーターにとっては、日本のランドオペレーターや旅行会社とコネクションを得られることはビジネス的なメリットが大きく、逆に言うと日本の1社とでも契約が取れれば大成功ということになります。

いまでこそ海外旅行では韓国人や中国人も増えてきましたが、昔からは日本人は旅行が大好きで、また現地での振る舞いも落ち着いているので、好まれる旅行者の筆頭です。そんな日本の旅行者や旅行社にリーチする為のビジネスなんかも、今後は増えていくのではないかと思いました。旅博で感じた出展者側のニーズは整理すると以下の通りです。
・各国政府観光局によるイメージアップ施策
・各国のローカルツアーオペレータによる法人営業
・各国のローカルツアーオペレータのウェブや配布物の日本語化

旅行ビジネス、旅行プロモーションビジネスもどうかなぁなどと考えた4日間でした。こういったビジネスにおけるウェブサイトや情報技術のあり方もいろいろありそうです。

soko aoki

センサーネットワーク

2012年9月

数年前に「センサーネットワーク」を研究していました。センサーネットワークとは、簡単に言うとセンサーがネットワークに接続されて新たな価値を生み出すシステムです。細かく言うとセンサーがワイヤレスであったり、データ通信がマルチホップ通信であったり、即興的にネットワークが構築されるアドホックネットワークであったりといろんな特徴づけも出来るのですが、とりあえずはここではセンサーがネットワークに繋がっているものをセンサーネットワークとして取り扱います。

センサーネットワークとカディンチェ

創業にあたり、当社が提供すべき技術してセンサーネットワークは選択肢に上がっていました。実際に受託開発では生体センサメーカーや私立大学の研究室からセンサーネットワークのデータビジュアライゼーションシステムの開発も受けております。ただ、パノラマバーチャルショップ/ツアーサービスにフォーカスしていたこともあり、自社サービスとしてセンサーネットワークに関する営業を出来ていないのも事実です。今日はそんなセンサーネットワークに関して、世界的にはどんなプロダクトやスタートアップが出てきているのかまとめてみました。

クロスボー:Mote

クロスボーはセンサーネットワーク研究の権威の一つであるカリフォルニア大学バークレー校発のベンチャー企業で、センサーネットワークを構成するセンサーノードの開発や販売を行っている会社です。世界中の研究者はここの製品であるMoteを使っていることもあり、センサーネットワークの会社としては老舗と呼べる会社だと思います。その製品の一つがeKo Moteで、防水タイプの無線センサーノードになっていて、主に農業等での使用を想定されています。


Green Goose

こちらはセンサーネットワーク研究者の後輩に教えてもらった米国の会社です。二つの製品を発売していて、一つは歯ブラシセンサーで、子供の歯ブラシに装着することで、どれだけ歯磨きをしているかをスマートフォンアプリを通じてチェックできるものです。もう一つはペットセンサーで、ペットがどれくらい散歩をしたのかや、3食食べているかなどをモニタリング、記録できるシステムになっています。センサーを日常的に楽しく使おうというアプリになっていますね。


SmartThings

クリエーターのためのクラウドファンディングサイトで話題になっていたのが、物体にセンサをつけることでモノをスマート化し、モノのインターネットを構築するデバイスSmartThingsです。原理的にはGreen Gooseなどとも似ていて、ドアにセンサをつけて開閉を検知し、ベースステーションにそのデータを送るなどの仕組みです。このモノのインターネットという考え方はRFIDによるオブジェクト認識から最近のSmartThingsのような取り組みまでを含めて、今後発展するであろう分野だと認知されています。


Pachube / Cosm

ここまでの多くがハードウェアを提供してたのに対して、Pachube / Cosmはそういったデータを集約するウェブサービスです。もともとはPachubeという名前のサービスでしたが今はCosmと呼ばれているようで、センサーの所持者はこちらのサイトに自分のセンサーを登録することで世界中の研究者や開発者にセンサーデータを提供できます。逆もまたしかりで一般ユーザはサイトに登録されているセンサーデータを利用して新たなアプリやシステムを作れます。実は当社のオフィスに設置されていた温度センサを一時期Pachubeにフィードしていました。


Microsoft SenseWeb

マイクロソフトの研究所でも、センサーデータを集約するウェブサービスであるSenseWebの研究がされていました(いまでも続いているかはこちらのウェブサイトからは読み取れませんでしたが)。大企業の研究所らしく、地図アプリケーションである3次元地形図へのデータのプロットをやったりと多くの研究成果が生まれたようです。


まとめ

センサーネットワークの技術自体は軍事、農業、工場等の大規模インフラストラクチャとして導入されているケースは多く存在しますが、一般ユーザの生活に入ってくるのはこれからだと考えています。また、センサーネットワークをテーマとした国際学会(例:ACM Sensys)も盛んで、次から次への研究成果が出てきています。今後も注目していきたいと思いますし、技術開発に取り組みたいと考えています。また追加情報がありましたら、こちらのページに追記していきたいと思っています。

soko aoki

サウンドデザイン

2012年9月

「そうだ京都、行こう。」JR東海

「そうだ京都、行こう。」。これは1993年から始まった某鉄道会社のTVCMのキャッチフレーズ[太田恵美(コピーライター)]です。このTVCMを通じて約20年間もの間、春・夏・秋・冬の京都の良さを時代背景を表すキャッチフレーズと共に伝えられてきました。1997年初夏の詩仙堂編では「ある日突然戦うのが嫌になりました。花や虫たちと暮らすことにしました。」と、『武士』から『文人』に転身した石川丈山(いしかわじょうざん、1583年生)も闘いのストレスに悩まされたのかも知れませんね。そこで、わずか15秒のCMの中で唯一気になる音がありました。カコーン♪そうです「鹿威し(ししおどし)」です。

ランドスケープ(光の風景)とサウンドスケープ(音の風景)

着目したいのは『光景』と『音』のバランスです。21世紀の今日の技術においては、この「鹿威し」の竹筒を音響設計して最上の音色を創ることができます。しかしながら、丈山だけなく当時の方々は、ふすまを開けて和室から眺める視覚だけの風景に一つアクセントを取り入れたかったのではないでしょうか。そこで『音』だったのでしょうね。お寺には、鳥や蝉の鳴き声、床を踏む足音や床が軋む音、そして熊手を使っての庭の砂利の手入れ等、情景が浮かんできませんか。これらの音は不規則なリズムを刻む一方で、「鹿威し」は規則正しいリズムを刻みます。きっと、心を落ち着かせる効果があったのかもしれませんね。

動物は空間認知力(Spatial Perception)が優れている

ところで、この「鹿威し」は庭に動物を近づけない役目を持っているようです。厳しい地球環境で生きるために身近な動物には外敵から身を守るために感覚器官が発達しています。例えば、馬の耳はご主人様の命令に従うために耳を動かすことができ、またフクロウについては目の横に非対称性の両耳で3次元空間をとても繊細に獲物の位置を特定できると言われています。動物は人間と違い器用に道具を創ることができないため、こうした聴覚を使った360°の空間認知力が優れているのでしょう。

一方、創造性の有する人間は、この繊細な情報が含まれている360°の音空間で、安らぎを感じ、災害から身を守り、物質の質感を知り、花火の大きさや距離を知り、また調理の音から美味しさを楽しむなど、音を様々な役割として捉えています。

さて、これまでに、カディンチェではこのような360°の空間を撮影したPanoPlazaを展開してきました。これはギガピクセル・パノラマと呼ぶ高精細なパノラマ画像によるもので、360°の空間を自由に移動することができます(ギガピクセル・パノラマについての説明はこちら)。PanoPlazaはまた同時にあらゆる音を360°空間に貼り付けることもできますので、アピールしたいお店や綺麗な風景などに併せて、360°の空間を視覚と聴覚(サウンドデザイン)で雰囲気創りの演出をしてみてはいかがでしょうか。

おわりに

これまでカディンチェは画像の空間表現技術の探究に基づきPanoPlazaを開発してまいりましたが、(空間表現技術の比較はこちら)、カディンチェは引き続き自然環境に近い統合メディアについて検討を行ってまいります。

akihiko arimitsu