RICOH THETAの現状と未来(前編)

2014年1月

昨年10月、リコー社から満を持してRICOH THETAが発売されました。

実はリコー社が全方位パノラマ写真撮影カメラの研究開発を進めていることは販売以前から知られており、CES2013で展示されたプロトタイプや、「広角レンズおよび全天球型撮像装置」という特許の内容などから、その姿を少しだけ垣間見ることができました。

しかし、実際に発表されたRICOH THETAは、プロトタイプからは想像できないほどスマートに洗練されたデジタルガジェットでした。

 


先に結論めいたことを言うと、賛否両論ありますが、RICOH THETAは「全く新しいジャンルにおいて初めてローンチされたプロダクト」としては、非常に高いレベルの完成度に達していると思います。消費者視点から「買いか否か」を論評するレビュー記事は他のサイトにお任せして、本ブログでは、パノラマ業界の端くれとして少し違った視点からRICOH THETAについて深堀りしていきたいと考えています。

今回の前編では、従来のパノラマ写真の撮影手法との比較において、改めてRICOH THETA登場の意味付けを行うとともに、今後の方向性を考察します。続く後編では、もう一歩踏み込んだRICOH THETAの開発ロードマップ予測と、弊社の取り組みをご紹介する予定です。

手間と画質のバランスが取れたパノラマカメラ

やはり最大の特徴は、全方位パノラマ写真の撮影を極めてシンプルかつ瞬間的に行える点に尽きます。
これまでのパノラマ写真は、かける手間(コスト)と得られる画質(クオリティ)が極端にトレードオフの関係にありました。 下図は、本ブログでもご紹介したことがあるパノラマ写真撮影手法を改めてマッピングしたものです。

 


例えば、弊社の基本的な制作フローでは、まず一眼レフカメラと専用雲台と三脚を組み立て、60度づつ角度を変えながら18枚HDR撮影し、更にPCに取り込んで、専用ソフトウェアで半手動でスティッチング処理をする…という非常に手間のかかる手法を採用しています。もちろんこれはお客様へのご納品を前提とした手法であるため用途が若干異なりますし、特に画質の面では一概に比較はできませんが、上述したような煩雑な作業がボタン一つで完了してしまうのは、既存の常識を覆す素晴らしいイノベーションと言えるでしょう。過去にも同様のコンセプトのカメラが登場しましたが、携帯性や操作性など、あらゆる点においてそれらを遥かに凌いでいます。

また、ソフトウェア面においても、スマートフォンアプリとのシームレスな連携は注目すべき点です。
RICOH THETAでは、iPhoneまたはAndroidに専用アプリをダウンロードすることで、Wi-Fiを経由してリモートでシャッターを切ることができますし、逆にRICOH THETA内部に保存されたパノラマ写真をスマートフォン側に転送して、専用ビューワーで閲覧することも可能です。

 

RICOH THETA for iPhone(写真:TRIAND

 

いまや、スマートフォンは日常生活における、あらゆるネット行動の起点となっています。このスマートフォンとRICOH THETAというハードウェアを、アプリケーションを通じて上手くつなぎ合わせることで、より豊かで自由度の高いユーザー体験を実現していると言えるでしょう。

開発者向け戦略が成功の鍵?

米国などから先行して販売が始まりましたが、まだ海外ではそれほど認知が進んでいないように感じます。対して、後発で販売が決まった日本では予想以上の反響があったようです。当初のプランでは、「表現志向の強いクリエイター」がRICOH THETAのアーリーアダプター層になると考えられていたそうですが、実際にマーケットに出してみると、ソフトウェア開発者など「ギークな人々」から多くの注目を集めているようです。RICOH THETAの様々なハック報告を拝見する限り、むしろ彼らから見た「プロダクトの不完全さ」がエンジニア心を掴んだのかもしれませんね。

 

RICOH THETAファンミーティングの様子(写真:デジカメWatch

 

このようなマーケットの反応を踏まえると、それほど遠くない時期にリコー社から公式のSDK/APIが公開される可能性は高いのではないでしょうか。事実、Photosynth(パノラマ写真が撮影できるアプリ)でも、専用アプリと同様にRICOH THETAを制御できることから、非公開APIが存在すると考えて間違いないでしょう。

ウェブサービスの成長戦略において公開SDK/APIを通じた開発者コミュニティの形成は非常に重要な要素となりつつありますが、ハードウェアビジネスでも同様のことが言えると思います。例えば、マイクロソフト社のKinectは、販売直後にあっという間に開発者たちにハックされ、ゲーム以外の様々な用途のアプリケーションが生み出されました。マイクロソフトは当初ハッキングに対して否定的な見解を示していましたが、すぐに容認する姿勢に転じます。これが功を奏したのか、Kinectアプリケーションの開発者コミュニティーは一時的にかなりの盛り上がりを見せました。

RICOH THETAも開発者を上手く惹き込むことで、プロダクト本体はシンプルさを維持したまま、サードパーティー製の多種多様なパノラマ関連アプリケーションやソリューションが登場することをぜひ期待したいところです。

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» RICOH THETAの現状と未来(後編)

サンフランシスコ・シリコンバレー出張 2014

2014年1月

シリコンバレー初訪問

アメリカはサンフランシスコとシリコンバレーに出張に行ってきました。実はシリコンバレーは初訪問で、私もITに関連している端くれとしては、IT起業家のメッカとしてのシリコンバレー訪問をとても楽しみにしてました。どこかでシリコンバレーに対するコンプレックスみたいなものを抱いていたのですが、そういったコンプレックスは解消された気がします。たかが数日の滞在なので、表面的にしか見られてないかもしれませんが、以下参考までにまとめてみました。

出張概要

今回の出張でできた事は主に以下の通りです。
・大企業訪問(アップル社)・キャンパス内でランチ
・ベンチャー企業訪問(3Dディスプレイの会社)
・広告代理店(日本にも支社のある国際企業)訪問・打ち合わせ
・大学訪問(スタンフォード大学)・現地で研究されてる方とキャンパスツアー
・当社のパートナー会社(所在地はテキサス州)と打ち合わせ
・CESに来られてた日本の大企業の方と打ち合わせ
・大学時代の先輩宅訪問(日本のS社社員として赴任中)
・サンフランシスコ、クパチーノ、マウンテンビュー、サニーベール、パロアルト等を散策

シリコンバレーの印象

シリコンバレーといえば、毎年4000-5000のベンチャー企業が創業され、しかも年間数社の会社が時価総額1兆円を超えるような、すごい地域です。場の力(パワースポット)みたいなものがあると思いきや、一見するとフツーの街なんですよね。とはいえ、特徴としては以下のような印象を持ちました。
・温暖で快適(冬でしたが、昼間はフリースで過ごせるぐらい)
・マーケットから遠い、若い、オープン、静か、多様な人種
・東京都の約2倍ぐらいの面積に分散して企業が存在する
・Caltrainという電車はあるが本数が少なく不便で、基本的には自動車で移動
・半導体工場だった所は土壌汚染、また地価や物価の高騰という問題はある

これらの中でも、「マーケットから遠くて静か」というのが印象的でしたね。東京ベースの僕らの場合は、顧客目線というと例えば東京の企業や渋谷や品川にいる人たちをイメージしがちですが、シリコンバレーでは各マーケットから適度な距離があり、そこで働いている人が多様である事から、発想の段階からグローバルマーケットをイメージしやすい。マーケットが遠いことから、直接の販売や営業もやりづらく、なるべく完成度を高めてからだったり・ネットで完結するような製品づくり・マーケティングを行うというスタイルだったりもするのかもしれません。これらがビジネスのスケーラビリティに繋がっていく。また、会社が置かれている環境=街が静かなことや、ベンチャーキャピタルなどの投資環境が整っている事からも、腰を据えて淡々とモノづくりが出来るのではという雰囲気も感じました。

まとめ

シリコンバレーから近い大都市サンフランシスコは商業施設や金融機関が多い一般的な大都市ですが、最近はクリエイティブな企業もダウンタウンにオフィスを構える例も多いらしいです。一方で危険な雰囲気を感じるエリアもあり、アメリカでの格差社会を垣間みれました。

カディンチェとしてはまずは現在頂いているチャンスを生かしてプロジェクトを成功させ、引き続きシリコンバレーやアメリカと関わりながら歩みを進められればなと思いました。

soko aoki