360°パノラマを超える表現力!「モーションVR」の現状と今後

2012年11月

モーションVRは「360度パノラマ写真の動画版」?

視野を360度全方位に操作できる、インタラクティブな映像コンテンツのモーションVR。

ここ最近、メディアに取り上げられて話題になる機会が増えてきました。パノラマVRコンテンツと違って、ユーザーが自由にバーチャル空間内を移動できるわけではありませんが、それでも通常の動画と比べると、その情報量や臨場感には圧倒的な差があります。

ネット上では、モーションVRを「360度パノラマ写真の動画版」と表現しているサイトをよく見かけます。確かにモーションVRに馴染みのないユーザに文章で説明する際には、分かりやすい表現と言えますが、コンテンツの成り立ちを考えると、正確には「動画の拡張版」と捉えたほうがよいかもしれませんね。
さて、そんなモーションVRですが、話題の元となっているネタは大きく2つのカテゴリーに分類できそうです。

モーションVRのUGCを可能にするデバイス

UGCとは、User-Generated Contetの略で、プロフェッショナルの作り手ではなく、一般の人々によって作成された様々なコンテンツを意味します。アマチュアのミュージシャンの方がYouTubeに投稿する「歌ってみた」系の動画などは、まさに代表的な例と言えます。

ちょうど、この1年ちょっとの間に、ユーザー自身がモーションVRを簡単に撮影できるデバイスが幾つか登場し始めました。詳細なレビューはここでは割愛しますが、このようなデバイスは前回ブログでもご紹介したbubblescopeに加えて、GoPano microKogeto dotなどがあります。(各デバイスの比較記事はこちらをご参照下さい。)



スマートフォンにワンショットミラーなどをアタッチする形式のものが主流のようです。これにはiPhoneを中心としたスマートフォンユーザの拡大が背景にあることは言うまでもありませんが、興味深いのは、いずれのデバイスも、「パノラマ写真」ではなく「モーションVR」が撮影できることを特長として強調している点です。

パノラマ写真はアプリだけでも撮影できてしまいますが、モーションVRはワンショットミラーなど、物理的な付属物がなければほぼ不可能です。故に、モーションVRを強調しているのだと思いますが、もしかすると、Youtubeのような動画共有サイトの盛り上がりを踏まえ、「パノラマ写真が撮れますよ」よりも、「ちょっと変わった面白い動画が撮れて、友人と共有できますよ」としたほうが、純粋にユーザのウケが良いからなのかもしれません。このような意味においても、モーションVRは「パノラマ写真の動画版」ではなく、あくまでYouTube文化の延長線上にあり、「動画の拡張版」なのだと考えています。

専門プロダクションによる高品質な映像コンテンツ

こちらのネタでは、カーレース、モトクロスバイク、自転車競技、スキー、スカイダイビングなど、いわゆる「エクストリームスポーツ」の競技の様子を収めたものが多く見られます。つい先日も、エクストリームスポーツのスポンサーで有名なRedBullが、自社チームのF1マシンに特殊なカメラを搭載し、そこから撮影したモーションVRを公開して大きな話題を呼びました。

モーションVRは乗り物との相性が良いらしく、国内ではトヨタのプリウスの最新CMでもこの技術が使われています。こちらはTVで放送される映像なので、インタラクティブな操作はできませんが、その分、非常にクリエイティブな見せ方になっています。

こういった高品質な映像コンテンツの裏では、前述のRedBullのモーションVRを制作したMaking View社(ノルウエー)や、他にもYellowBird社(オランダ)など、パノラマ専門プロダクションの存在があるのです。

今後のモーションVR

近い将来、モーションVRというコンテンツがどう発展していくと面白いのか、少し考えてみました。
モーションVRとパノラマVRの最も大きな違いは、「時間軸」を持っているかどうかです。モーションVRは本質的には動画であることから、そこには時間の流れがあり、ストーリー的な意味合いを持たせることが可能です。

では、この「時間軸」をもっと究極的に突き詰めるとどうなるか…?リアルタイム・モーションVRなんてどうでしょう。

現在は、ウェブコンテンツとしての利用がメインですが、個人的にはテレビ放送分野でも活用できる可能性があるのではないかと思います。技術的な制約はここでは一旦置いておきますが、例えば、スポーツのライブ放送。
今年夏に開催されたロンドン・オリンピックでは、様々な最先端の撮影技術が活用されたそうです。世界中が注目する世紀の瞬間を、よりアスリートの近くで、より臨場感あふれる写真を撮影したいと思うのは当然のことです。

ロボットカメラ
ロイター社が保有する遠隔操作が可能なロボットデジタル一眼レフカメラ(写真:参考記事から引用)

もし、このような技術と、モーションVRのリアルタイム撮影・配信技術を上手く組み合わせたら、これまでに無い、全く新しいスポーツの楽しみ方をファンに提供することができると思います。决められたアングルでしか見られないテレビのスポーツ番組なんて、昔の話になるかもしれませんね。

ワンショット・360°パノラマ撮影専用デバイス GIROCAM

2012年11月

PanoPlazaでは通常一眼レフカメラと魚眼レンズを使って撮影した写真を合成することで360°パノラマ写真を制作していますが、パノラマ写真の撮影には様々な方法があります。当サイトでも、「パノラマ写真の作り方」と題して、普通のデジカメで撮った写真をWebアプリで合成したり、iPhoneで撮影する手法をご紹介しています。しかし、普通のカメラで撮影した写真を合成する手順は割と手間ひまのかかる作業になりますし、iPhoneアプリを使った撮影では思うような画質が出ません。PanoPlazaへの問い合わせでも、お客様ご自身がパノラマを撮影し、バーチャルツアーを更新していきたいというお話を聞くことがあります。そういったニーズに応えるべく、360°パノラマ写真を手軽に簡単に、しかも高画質で撮影することができる、「パノラマ撮影専用デバイス」というものが世間にはいくつかあります。今日はそういったデバイスの一つである「GIROCAM」のご紹介と、魚眼レンズ+一眼レフで撮ったパノラマ写真との比較について書いてみたいと思います。

ボタン一つで360°パノラマが撮れるGIROCAM

GIROCAM」は、フランスのGIROPTIC社が生産しているデバイスで、同じくフランスのKolor社から販売されています。Kolor社はパノラマ写真のスティッチング(合成)ソフトやバーチャルツアー制作のためのアプリケーションを開発・販売しており、この分野では大きなシェアを持っています。GIROCAMにはKolor社のソフトウェアが組み込まれ、ワンショットでの撮影からパノラマ合成までを、このデバイスと専用のソフトウェアで行います。撮影はとても簡単で、GIROCAMを三脚の上に固定し、ボタンを押すだけ。撮影の前にいくつかカメラの設定を行うことができますが、基本的に撮影時の操作はボタンを押すだけです。ボタンを押すと、10秒からカウントダウンが始まるので、撮影者は急いで隠れます。GIROCAMは全方位を一気に撮影するので、「カメラの後ろ側に隠れる」ということができません。撮影が終了するまでの時間は約1分程度ですが、その間はカメラが見えない位置に身を潜めます。撮影が終了すると「シュワワワビュワー」という近未来的な電子音が鳴り、撮影完了を知らせてくれます。

GIROCAMで撮影したパノラマ写真

上記がGIROCAMで撮影したサンプルです(クリックすると大きな画像が表示されます)。撮影後の操作も非常に簡単で、デバイスをUSBケーブルでPCにつなぎ、専用のソフトウェアから画像データを開くだけで合成が始まります。約1分くらいで合成が完了し、JPG形式のパノラマ写真が仕上がります。
※本来はパノラマ下部に画角に収まらない範囲が黒く塗りつぶされた状態で仕上がりますが、上記サンプルはその部分をトリミングしてあります。

続いてこちらはまったく同じ場所から一眼レフ+魚眼レンズで撮影したものです(クリックすると大きな画像が表示されます)。同じ範囲をトリミングしてあります。一見すると、画質がどうというよりも、色相がだいぶ違いますね。。撮影した時あたりは薄暗く曇っていたので、実際の現場に近いのは「一眼レフ+魚眼レンズ」で撮影した方です。GIROCAM側の設定で、この「色味」の違いはある程度補正できると思います。

画像を大きなサイズで見てみると、GIROCAMで撮影した方は若干、つなぎ目がズレている部分があります(GIROCAMは3つの魚眼レンズで同時撮影しているため)。全体的に少しノイズが入っており、モヤついた印象が否めません。また、「一眼レフ+魚眼レンズ」の場合は角度を分けて撮影するため、周囲の人や車が映り込むのをある程度防ぐことができます。その向きに人が居ない瞬間を狙ったり、合成の過程で切り取る事もできます。一方GIROCAMのワンショット撮影では、1度の撮影で全方位を撮るため、人や車が入った場合に修正しようがありません。今回はちょうど通りかかった方が映り込んでしまいました。。

パノラマデバイスは今後も進化するか?

「一眼レフ+魚眼レンズ」で正攻法的に撮影したパノラマ写真と結果だけを比較すると、当然ワンショット・デバイスの画質は劣ります。そのため時間や環境が許す限り、正攻法の撮影がベストなのですが、GIROCAMの魅力はその手軽さです。三脚とデバイスさえあれば、撮影時に考える事はほとんどありません。どこに露出を合わせたら良いかとか、カメラの設定を気にする必要は一切なく、たった1分程で撮影が終わってしまいます。これだけ簡単に撮影ができて、その上画質もそこそこに仕上がります。画質にそこまでこだわりが無い場合や、短時間で大量の撮影を行う時などには、非常に有効なソリューションだと思います。

パノラマ写真の撮影やパノラマコンテンツが徐々に増えてこそいるものの、なかなか火がつかないのには、パノラマ撮影の難易度に原因の一端があると私たちは感じています。もっと手軽に、キレイなパノラマ写真が撮れれば、利用者はもっともっと増えるでしょう。iPhone5にもパノラマ写真の撮影機能が搭載され、スマートフォンでパノラマを撮影するという技術は確立されつつあります。一方、スマートフォンの画質では物足りないというユーザーをターゲットに、「GIROCAM」のような専用デバイスが活用され、より新しい技術や製品が提供されることを期待しています。

追記:
当記事執筆前後に、仏Kolor社は当記事でご紹介させて頂いた「GIROCAM」の取扱いを中止すると発表しました。詳細はこちらに記載されています。これにより、これまでKolor社によって提供されていたGIROCAMハードウェア本体のテクニカルサポートが打ち切りとなります。GIROCAMに同梱されているソフトウェアについては、引き続きKolor社でのサポートが継続されるようです。ご購入をお考えの方は、充分ご検討下さい。