Startup Asia Singapore レポート (後編)

2012年2月

Startup Asia Singapore レポート(前編)に引き続き、後編ではシンガポールへの進出のメリット・デメリットや、シンガポールのオフィス事情について書きたいと思います。


シンガポール進出の目的をどう設定するか

海外に進出する際の主目的として、以下の3種類があるのではと考えました。

1、顧客を獲得するマーケットとしてのシンガポール:
 シンガポールの人口は約500万人であり、日本の大きな政令指定都市一都市(神奈川県横浜市は370万人)分のマーケットと捉えるとその大きさをイメージしやすいのではないでしょうか。正直、マーケットサイズは大きくありません。また、その国土の小ささ(端から端まで地下鉄で1時間強程度で移動可能)から、たとえば欲しいものがあればショッピングセンターに行きやすかったり、不動産を見たければ現場に行った方が早かったりと、ネットを使用した買い物や調査にはやや向いてない環境といえそうです(シンガポール在住のIT企業勤務者談)。とはいえ、周辺諸国に比べればネット環境は充実していて、国民一人当たりの収入も高く、町中でスマートフォンを持っている人も多く見受けられます。コンパクトで、成熟しつつある市場で、試験的に進出というスタンスが最もシンガポールマーケットには合ってると考えました。

2、開発拠点としてのシンガポール:
 シンガポールは大学教育や大学での研究も進んでおり、シンガポール国立大学だけでなく、南洋理工大学、シンガポール経営大学など学生を輩出する高等機関が多くあります。また周辺のインド、インドネシア、マレーシア、ベトナム等からの移民も多く、優秀な人材が集まっている印象があります。人材の豊さにおいてはとても魅力的な一方で、平均的な技術者の賃金を聞いたところ日本よりも少し安いくらいで、決して日本からのオフショア先・安い開発拠点として利用できるような価格差はなさそうです。開発拠点としては、スキルの高い人材採用は可能でも、コスト的には日本と比べて優位というわけではなさそうです。

3、会社法人を設置するための国としてのシンガポール:
 ではなぜシンガポールにアジアのヘッドクオーターを置いている企業が多いかというと、法人設立のしやすさや、税金の安さ、また駐在員の住環境としての成熟度合い等が大きいのではないでしょうか。周辺各国でビジネス展開を行い、その売り上げはシンガポールの本社につけるということで、稼ぐのはアジア全体、節税や生活はシンガポールでという構造を作れます。周辺各国への飛行機によるアクセスも便利ですので、確かに会社法人を設置するためのシンガポールは魅力的です。


シンガポールのオフィス事情

 こういった経緯もあり、今回はCrosscorp Singaporeさんが運営されているレンタルオフィスの内覧にいきました。結論としては、日本と同等レベルのオフィス環境が用意されており、最低価格のバーチャルオフィス(月額数万円)から通常のオフィス(月額数十万円)までバリエーションが豊かなために、スタートアップに取ってはとても良い環境があると感じました。


前編・後編と、Startup Asiaに参加してみて、シンガポールで感じたことを書いてみました。弊社としての海外進出に際しての課題点が明確になり、具体的な進出方法も見えてきたので、とても有意義な訪問になりました。以上、参考になれば幸いです。

iPhoneアプリを使ったコンテンツをご紹介

2012年2月

iPhoneアプリでバーチャルショップ

PanoPlazaではパノラマ写真を使った「バーチャル・ショップ」をメインにご提案・ご紹介をしているのですが、最近はiPhoneアプリを使ってコンテンツを構築している例も増えてきました。当サイトでも、パノラマ写真の作り方というページで、パノラマ写真の撮影方法や合成手法などをいくつかご紹介していますが、中でも一番アクセスが多いのが、iPhoneアプリでパノラマを撮るというページです。アプリで撮影したパノラマ写真では、まだまだ高解像度・高品質のバーチャル・ツアー、バーチャル・ショップを構築することは難しいのですが、手軽に撮影できる点や、何より無料ですぐに構築できるため、実験的にコンテンツを作成して下さる方が多いようです。iPhoneアプリでも、慎重に丁寧に撮影すれば、少なくともiPhoneで閲覧する分には充分なクオリティのコンテンツを制作することができます。

Microsoft Photosynthで撮影したバーチャル・ショップ

今日ご紹介するのは、Microsoft社が提供する無料アプリ 「Photosynth」で撮影したバーチャル・ショップ。東急東横線の大倉山駅にある「パティスリー・ピオン」様が制作してくれました。

パノラマの一部に欠損がありますが、 「Photosynth」で丁寧に撮影すれば、ここまでちゃんとしたパノラマ写真を仕上げることができるんだと、関心してしまいました。「お店の雰囲気を伝える」分には充分なクオリティです。小さな写真をいくつも並べるよりも、こういったコンテンツの方が確かにその場の雰囲気を正確に伝えられるような気がします。今後もこういったユーザー様が増えて、色々なコンテンツを試して頂ければと思い、ご紹介させて頂きました。

当記事は、ユーザー様の許可を得て掲載させて頂いております。PanoPlazaを利用して制作したコンテンツが、ユーザー様の許可なしに当サイトに掲載されることはございません。



Startup Asia Singapore レポート (前編)

2012年2月

カディンチェ株式会社は2012年2月2日・3日にシンガポールで行われたStartup Asiaに参加しました。このイベントはアジア各国からITベンチャーが集まり、講演、スタートアップアリーナと呼ばれるショートプレゼンテーション、ブース展示等を行うものです。本レポートでは、今後同様な海外イベントに参加されるであろう方や、アジアのスタートアップ事情に興味のある方に向けて、簡単にレポートをまとめておきたいと思います。

I'm speaking at Startup Asia Singapore!


参加のきっかけ

Startup Asiaというイベントを知ったのはStartup Datingという日本のオンラインメディアだったと記憶してます。Startup Asiaの記事やバナーを見た次の瞬間には反射的にスタートアップアリーナに応募してました。その時に頭の中にあったのは、次の3点の動機でした。

1、アジアのマーケットへの興味
弊社では過去にも2010年10月にシンガポール、2011年2月に中国・上海にマーケティングを目的とした視察に行きました。これらの行動が証するように、アジアの新興市場には興味があり、その市場を知るには現場に行ったり、そこの人たちと話すことが近道だと常々考えていました。

2、自社サービスPanoplazaのPR
ベンチャー企業にとって、自社サービスをアピールする方法には、プレスリリースを出す、メディアに掲載してもらう、イベントで発表する等の方法があります。Panoplazaに関して言えば、2011年夏にプレスリリースを配信して以降、いくつかのオンラインメディアに記事を掲載してもらったり、2011年秋にはITpro ExpoやTechcrunch Tokyo等でデモブース展示を行ったりして、国内でのPRは定期的に行えてました。しかし、海外向けのサービス開発(主に英語化)やそのPRは出来ていなかったため、今回の参加をきっかけに海外ユーザーの獲得に向けてPRを行いたかったのです。

3、パートナー企業の発掘
パノラマバーチャルショップ構築サービスPanoplazaという特性上、サービスを使用してくださる法人顧客が必要になります。サービスの利用者を見つけるには、顧客に対して直接的に販売をしたり、販売代理店のような仕組みで営業を代行してもらったりする必要が出てきます。直販・販売代理店どちらの方法にしてもシンガポールやアジアへのアクセスはこれまでなかったので、一緒に組めるパートナー企業の発掘も狙いの一つでした。

また、社内エンジニアが潜在顧客と接したり、アジア市場を肌で感じることは、今後の研究開発でも役立つのではないかという、私も含めての研修的な位置づけもありました。


スタートアップアリーナの選考と本番までの準備

Startup Asiaに参加するには、3つの方法があります。一般参加者、ブース展示、スタートアップアリーナの3通りであり、一般参加者は申し込めば誰でも、ブース展示は展示料を払えば参加可能、アリーナのみは選考を通る必要があります。

1、応募(本番2ヵ月前)
アリーナへはアジア各国から合計約300件の応募があったそうです。書類選考で、サービスの概要やデモをした際のイメージを主催者に提出しました。約1時間ぐらいで応募はできます。

2、面接(スカイプ:本番1ヵ月半前)
約300の応募から40-50のスタートアップが選ばれ、シンガポール企業は対面の面接、海外企業はスカイプを利用したテレビ電話面接が行われました。弊社はスカイプによる面接で、約40分間の中でプレゼンや質疑応答を行い、その面接の最後に口頭で選考に通ったことを伝えられました。最終的に選考に通ったのはシンガポール、マレーシア、韓国、台湾、日本からの19企業でした。

3、プレゼン準備(本番3週間前-1週間前)
選考に通った後もプレゼン内容については、主催者と2回にわたりテレビ電話で相談をし、本番での見せ方を決めていきました。この中で、弊社では通常はPCを使ってのデモをしているのですが、よりPanoplaza(パノラマバーチャルショップ)の使用感を伝えやすい、タブレット(iPad)でのプレゼンのほうがインパクトがあるだろうと方針転換がありました。本番ではiBooksを使ったプレゼンになりました(そうなんです、パノラマバーチャルショップがiBooks内に組み込めるようになりました!)。

4、リハーサル(本番2日前-1日前)
シンガポールに到着後、本番の2日前と1日前に登壇者が顔を合わせながら、リハーサルを行いました。1回目のリハーサルは、Singapore Management Universityの教室を借りてのリハーサルで、約3時間にわたり各社のプレゼン練習とそれに対するフィードバックが与えられていました。また2回目のリハーサルでは、Singapore Post Centerという本番の会場で行い、マイクやプロジェクター等の機材や、実際の会場の大きさを確認しながら行われました。

Singapore Management Universityでのリハーサル
Singapore Management Universityでのリハーサル


スタートアップアリーナ本番

スタートアップアリーナの各社に与えられた時間は発表5分・質疑応答5分です。審査員は4名おり、会場には約500人の参加者がおりました。プレゼンの様子についてはこちらに公開されていますが、各国の若い企業家の情熱やプレゼンテーション能力が印象に残っています。Panoplazaのプレゼンも視覚的にわかりやすいということもあり、多くの方に理解してもらえたと思います。


また、アリーナでのプレゼン以外にも、会場内の別部屋でのブース展示も行い、実際に興味を持って頂いた人にはブースで詳細を説明できるようにしていました。多くの人に一気に見てもらうにはアリーナ、ゆっくり話をするにはブースという使い分けになりました。


Startup Asia最終日の夜は公式の打ち上げで、シンガポールで最もオシャレとされているクラブZoukにてパーティが行われ、参加者間のネットワーキングになりました。

得られたこと

Startup Asiaへの参加を通して、当初の目的を達成したのとともに、以下のものが得られたと感じています。

・応募から発表までのプロセス
スカイプでの面接や海外でのサービス発表・ブース展示など、この2ヶ月間のプロセス自体が貴重な経験になりました。また海外発表というのをきっかけに、サービス自身はもちろんウェブサイト、配布物、ポスターなどを一通り英語化し、今後の海外展開の土台が作れました。

・アジアマーケットの可能性
とはいえ、簡単に海外にサービスを展開できるということではありません。まず第一に各国のインターネット回線の帯域や、スマートフォンやPCの普及率、そしてオンラインショッピングの使用率など、日本とは異なる状況が明らかになりました。また第二にビジネスモデルのシンプル化の必要性も感じられました。顧客と頻繁に打ち合わせができない海外だからこそ、シンプルなビジネスモデル・サービスであることが、普及につながると身をもって感じました。


まとめ

アジアは中国やインドなどの超大国はもちろんのこと、インドネシア・マレーシア・ベトナム・タイなども発展が著しく、今後もITへの投資やオンラインショッピングでの消費額は増えてくる国々です。

Startup Asia参加を通して、実際にアジアの現場を感じるとともに、他のアリーナ参加者や会場に来ていた方などと知り合うこともでき、継続的に情報交換できるようなネットワークを構築できました。引き続き、Panoplazaの改良を続け、アジア市場・世界市場に出ていきたいと思っています。

以上、参考になれば幸いです。